鈴木亮平が主演を務めるNHK大河ドラマ『西郷どん』の第14回が15日に放送され、平均視聴率は1.1ポイント減の11.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だったことがわかった。
これで本編としては2話連続で1ポイント以上数字を下げたことになる。「特別編」放送前の第12回までは14~15%台で推移していただけに、本編を1回休んで番宣を放送したことによる影響は思いのほか大きかったようだ。NHKの構想によれば、特別編はあと2回どこかの時点にはさまれるようなので、そのたびに視聴率を下げることが懸念される。
さて、ストーリーは今回も大きく動いた。簡単に言えば、将軍家定(又吉直樹)は一橋慶喜(松田翔太)を次期将軍に指名し、これまで政治の話から逃げ回っていた慶喜も自らの運命を受け入れて将軍になることを決意した……という展開。なかなか進まなかった話がとんとん拍子に進んだのはいいが、全体的に構成が雑だったのは残念である。
島津斉彬(渡辺謙)から、次期将軍として慶喜を指名するように家定に吹き込めとの密命を受けていた篤姫。輿入れから1年たっても言い出せずにいたのに、たまたまふらりと大奥へやって来た家定にいきなりその話を切り出してしまう。話の流れも何もあったものではない。家定も機嫌が悪くなり、「一橋は好かん」と怒ってしまうが、慶喜が将軍になれば民もみな無事息災でいられると篤姫に説得されるとコロリと態度を変え、「余の次は一橋にする」と宣言した。
テンポよく進むのはいいが、物事に至るまでの背景なり伏線なりをすっ飛ばし、感情の動きもさほど描かずに台詞だけで重要な出来事が進んでしまった。掘り下げようと思えば、篤姫がどうやって家定にこの件を伝えようかと苦心する様子も描けただろうし、渋る家定に必死に食い下がって説得する様子も描けたはずだ。輿入れから1年間も切り出せなかった話をある日突然切り出して、数分間で解決してしまうというのはドラマとしてどうなのか。
斉彬直属の「お庭方」であるとはいえ、一介の身分の低い藩士でしかない西郷吉之助(鈴木)がいきなり井伊直弼(佐野史郎)に呼び出された展開も、あまりいただけない。ドラマである以上は多少の創作もいいとは思うが、主人公が序盤から重要人物と直接対面しすぎるのも考えものである。
偉い人とは直接会えないからこそ話が広がるのであって、主人公が誰とでも直接話ができるのであれば、この後何が起きても「当人同士が直接話せば済むではないか」で終わってしまうからだ。一部視聴者の間では、幼い主人公が次々と有力武将に直接口出しした伝説的な大河ドラマに本作をなぞらえて「“江”の男版」と本作を揶揄する向きもあるようだ。これまでのストーリーを振り返ると、確かにそう言われても仕方ないだろう。
主役である吉之助の描き方にも相変わらず疑問が残る。特に今回は、慶喜を襲った刺客を刺し殺してしまい、奇声を上げてうろたえたり、その後も「おいは人殺しじゃ」といつまでも動揺する様子が描かれた。
当時の武士は実戦経験があるわけではないから、吉之助の行動自体はわからなくもない。だが、このエピソードが後々何かにつながるとも思えない。吉之助は今回、人の命を奪ってしまったことを悔やみ、「敵にも主君や親兄弟がいる」と語ったが、そんな彼もいずれは自ら積極的に人の命を奪っていく立場に変わる。果たして、ひとりの人間の行動として整合性が取れるのだろうか。
あるいは、後日描かれるであろう西郷のダークな面のエクスキューズとして、「本当はそんな人間ではありません」というエピソードを描いたのだろうか。真相はいずれ判明するだろうが、いずれにしても話の中で不自然に浮いたエピソードであった。
さて、次週第15回のサブタイトルは「殿の死」。斉彬が登場するのは、この回限りではないかといわれている。視聴率が続落しているなか、圧倒的な存在感で物語を牽引してきた渡辺がこのタイミングで退場するのは非常に厳しい。吉之助にとっても、演じる鈴木亮平にとっても、偉大な後ろ盾を失うここからが正念場になりそうだ。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)