ミュージシャンで俳優のピエール瀧がコカインを使用したとして麻薬取締法違反容疑で逮捕、さらにこの2日に起訴されたのは各メディアで既報の通り。電気グルーヴのCDや音源は回収および出荷停止、レギュラー出演していたNHK大河『いだてん~東京オリムピック噺~』は代役に三宅弘城を立て、また映画『居眠り磐音』(松竹)では代役に奥田瑛二を立てて撮り直しを行うこととなった。エンタメ業界におけるこのような対応に際し、坂本龍一は「音楽に罪はない」、松本人志は「作品に罪はある」と語り、今もなお賛否両論が渦巻いている問題ではある。
そんななか、ピエール瀧が出演することになっていた映画『麻雀放浪記2020』(東映)は予定通り、撮り直しもナシで4月5日に公開が決定。東映の代表取締役である多田憲之社長は記者会見を開き、「劇場での上映は有料であり、かつ観賞の意志を持ったお客様が来場し観賞するというクローズドなメディアでありますので、テレビ放映またはCM等とは性質が異なります」と述べ、一部では拍手喝采が巻き起こった。
そもそも51スクリーンの中規模映画
では、トップの判断でいつも右往左往させられがちな現場の人間たちは、どのように感じているのか。件の東映関係者は、次のように語る。
「社内では『まさに大英断だ』『作品に罪はない』といった祝福ムードですが、『麻雀放浪記2020』は全国51スクリーンで上映予定の中規模映画。これが、東宝さんの300スクリーンを超えるようなメジャー作品であれば、お子さんの目に触れる機会も多くなるため公開延期&撮り直しになっていたと思いますね。
しかし、そもそも同作は『全編をiPhoneで撮影』『試写会を行わない』『舞台は東京オリンピックが中止となった2020年の東京』など、ピエール騒動が起こる前から“前代未聞の問題作”扱いだったので、自粛するような必要性はなかったのではないかと思います。それに加えて、『構想10年』と語るほどこの作品への思い入れが強かった主演の斎藤工さんや、問題作を次々と世に放つ白石和彌監督の『絶対にこのまま公開する』という強い気持ちがあったからこそ、このような決定につながったと聞いています」
上記の記者会見には白石監督も出席し、「一緒に映画をつくってきた仲間が、こういう犯罪を犯してしまったことに対して大変驚いた。強い憤りを感じる」とコメント。白石監督の胸中を某映画関係者は次のように推測する。
「白石監督の初の長編作であり最初のヒット作でもある2013年の映画『凶悪』(日活)で準主役を演じたピエール瀧さんは、この作品によって俳優としての地位を確立したといっても過言ではありません。低予算の映画だったにもかかわらず数多くの賞を獲得し、実際に瀧さんの俳優としての仕事はこれを機に広がりました。そういう意味では、瀧さんにとっても白石作品は特別なもののはず。その後も白石作品の常連俳優となっていますが、いま瀧さんがもっとも悔やんでいるのは、白石監督に迷惑をかけたことではないでしょうか。
しかし、ふたを開けてみると、レギュラー番組が打ち切りになったり、出演していたプレステ4のゲーム『JUDGE EYES:死神の遺言』までもが販売自粛、欧米版は代役を立てての発売となるなど、自主規制の嵐が続くなか、『麻雀放浪記2020』だけが奇跡的に生き残った。これは、瀧さんにとっては不幸中の幸いだったといえるのかもしれません。もはや俳優として戻ってこられない以上、『麻雀放浪記2020』がピエール瀧の“遺作”となることは間違いないでしょう」