8月31日、人気女性アイドルグループ・乃木坂46の最新作となる30枚目シングル『好きというのはロックだぜ!』が発売され、初日売上43.5万枚(オリコン調べ/8月30日付)を記録。オリコンデイリーシングルランキング1位を獲得し、その国民的人気ぶりをあらためて実感させられた。
だが、そんな今作の選抜メンバー19人のなかで2期生は、鈴木絢音(23)のみである。いや、2期生自体、鈴木しか残っていないのだ。というのも、同じ2期生の山崎怜奈(25)が今年7月17日をもって卒業してしまったからである。
山崎といえば、「れなち」「れなちさん」「ザキさん」など30を超える愛称を持ち、クイズ番組や歴史教養バラエティなどに多数出演していることもあり、乃木坂46のファンでなくとも知っている人は多いだろう。
そんな人たちに知らせておきたい事実がある。実は彼女、乃木坂46に加入してから卒業するまで、一度も選抜経験がないのだ。それにもかかわらず、“アイドル・山崎怜奈”は実はかなり凄い人だったのである。卒業から1カ月以上たった今、彼女が乃木坂46に残した功績をあらためて考えてみたい。
山崎伶奈は1997年5月21日生まれの東京都江戸川区出身。15歳だった2013年3月28日、2期生オーディションを勝ち抜いた14名に選ばれ、グループに加入した。ところが、この2期生は最初から正規メンバー扱いされることはなく、今となっては謎の“研究生”というシステムが採用されていたのである。ちなみに、のちに加入する3期生や4期生、5期生にこの制度はなく、最初から正規メンバー扱いとなっていた。
たとえば、2期生のなかで最速で正規メンバーになったのは当時16歳の堀未央奈(25)だったが、それは2013年11月に発売された7thシングル『バレッタ』においてセンターに大抜擢されたためだった。のちに選抜常連組となる新内眞衣(30)も、正規メンバーに昇格したのは2014年3月2日だったように、2期生の扱いはバラバラであった。
彼女がようやく正規メンバーに昇格したのは2015年2月22日のこと。最初のお披露目から、およそ2年もかかっていた。のちに彼女は「乃木坂46を辞めようと思ったことが3度ある」と語っているが、そのうちの1つがこの研究生期間だったという。
だが、学業に専念するため、同年6月から活動を一時休止。超難関の慶應義塾大学環境情報学部に合格し、芸能活動を再開すると、たちまち“インテリアイドル”として評価され、『Qさま!!』(テレビ朝日系)などのクイズ番組に出演するようになり、徐々に注目されるようになる。
歴史好きを極めて仕事の幅を広げる
また、グループ随一の“歴女”でもある。高校の教科書は2冊買い、うち1冊には余白に登場人物の相関図などを書き込んで、ドラマ感覚で学んだという。好きな偉人は坂本龍馬、渋沢栄一、蒲生氏郷などで、“歴ドル”として歴史関係の教養番組からも引っ張りだことなった。
すると、2019年5月からひかりTVチャンネル+で自身の冠番組『乃木坂46山崎伶奈 歴史のじかん』の放送が開始されたのである。同番組は約1年で終了したものの、2021年2月に自身初の書籍としてこの番組を基に執筆した『歴史のじかん』を出版。なんと発売前に重版が決まってしまうというおまけまでついた。
まさにグループ随一のインテリだったワケだが、それでも頭の良いアイドルは彼女だけでなく、ほかにもたくさんいる。だが、山崎伶奈のすごいところは、クイズ番組への出演を重ねるたびに難問に答えられるようになり、実力がステップアップしていることが観る側にもはっきりとわかり、同時に存在感も増していったところにある。たとえば、グループ在籍時に出演した『Qさま!!』で、難問に正解すると“乃木坂46のザキヤマさん、大活躍”、不正解だと“ザキヤマさん、痛恨の失敗”というテロップが流れ、イジられたりしていた。
2020年10月には、クイズの対策も兼ねて世界遺産検定2級を取得したほどだ。それでもクイズに正解できないでいると、本気で悔しがったり、普段はもの静かなのに大好きな歴史の話になると饒舌になる様子も見受けられた。そういう自然体な姿に視聴者は惹かれたのである。
大好きなラジオで冠番組を持つ
さらに、大学受験生時代からradiko(ラジオ放送をインターネットで同時にライブストリーミングするインターネットラジオの一種)プレミアム会員に課金していて、日本各地のさまざまなラジオ番組のヘビーリスナーでもある。自身が愛聴している『森谷佳奈のはきださNIGHT!』(山陰放送)や『♯むかいの喋り方』(CBCラジオ)、『おとなりさん』(文化放送)にはゲスト出演も果たしている。
当然、こよなく愛するラジオでも、彼女は大活躍中だ。2020年10月から自身初の冠レギュラー番組となるラジオの生放送ワイド昼帯番組『山崎伶奈の誰かに話したかったこと。』(TOKYO FMラジオ)で、自身初のパーソナリティを務めているが、実は帯番組のレギュラー就任は乃木坂46のメンバーでは史上初の出来事。しかも、番組名に“乃木坂46”というグループ名がついていないところが、またすごい。
この番組のトークは著名人の間でも好評で、偶然聴いた有吉弘行も2021年1月24日に自身のラジオ番組『有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER』で、次のように絶賛したほど。
「どういう人生を送ったら、あんな上手にできるのかなと思った。面白いとかそういうんじゃないけど、上手にやる。ビックリしちゃった。勉強したいぐらいだもん」
また、同年6月に発売されたムック本『リスナーが本気で選んだ人気ラジオ番組完全ガイド』内の“毎日聴きたい帯番組部門”で1位を獲得。10月20日発売の読売新聞夕刊の“popstyle”では彼女の特集が組まれ、番組が取り上げられたのである。
選抜経験ナシでも成功できることを示した
一方、テレビでは『春菜ザキさんのタダの通販じゃねーよ!』(テレビ朝日系)でハリセンボンの近藤春菜とともにMCを務めている。同番組は2021年4月に『通販だけ生活』というタイトルで深夜番組としてスタートし、わずか3カ月で現在のタイトルに改められた(ここでもグループ名が入っていない点に注目したい)。そして1年後に日曜午前中に枠移動、現在も絶賛放送中である。
そのほか、2020年10月6日には出身地である東京都江戸川区の共生社会のあり方などを議論する会議体「えどがわ未来カンファレンス」の委員にも選出されている。2021年8月からは『Hanako』(マガジンハウス)のウェブ版『Hanako.tokyo』で、エッセイ『乃木坂46山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」』(現在は『山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」』に改題)が、2022年1月からは幻冬舎の公式ウェブマガジンである幻冬舎plusでエッセイ『山崎怜奈と「学ぶ」を考える』の連載がスタートするなど、才女としての一面を遺憾なく発揮しているのだ。
このように、選抜常連でなくてもグループ在籍時には乃木坂46の中で一、二を争うほど多忙なメンバーだったワケだ。多方面にわたる彼女の活躍は、乃木坂46の新規ファン開拓にもつながった。SNS上では、クイズ番組や歴史番組などで彼女のことを知って好きになり、そこから乃木坂46に興味を持ったという声が後を絶たなかった。グループの人気拡大に貢献した功労者と言っても過言ではないのである。
山崎怜奈を筆頭に2期生は加入当初、14人もいた。しかし、ファンから“不遇の2期生”と言われているように、その多くは1度も選抜入りすることなく卒業している。不幸にも同じ道を彼女も歩んでしまったワケだが、それでも山崎伶奈は乃木坂46において、唯一無二の存在であった。自分の趣味や好きなことを仕事で次々と実現させて、新たなアイドル像を確立させたからだ。選抜メンバーの代わりは何人もいたが、山崎伶奈の代わりは1人もいなかったのである。
いや、むしろ選抜に固執しなくてもいいということを体現したともいえる。8月17日に放送された『あちこちオードリー〜春日の店あいてますよ?〜』(テレビ東京系)にゲスト出演した際、山崎は「歌番組は年1回、メンバー全員で出る『NHK紅白歌合戦』しか出たことがないし、グループの冠番組も年に1、2回しか呼ばれなかった」と、半ば自嘲気味に語っていた。だが、それこそが彼女の勲章だ。
今現在、なかなか選抜入りできずに悩んでいる後輩もいるに違いない。そんなメンバーに、「こういう成功の仕方もある」「こんな卒業生もいる」ということを身をもって示した山崎怜奈は、乃木坂46にとって真に偉大な存在であったといえよう。
『歴史のじかん』 歴史やクイズなど、本人の幅広い興味を軸に、様々なフィールドで活躍を続ける山崎怜奈さんの初めての書籍は、2019年までひかりTV・dTVチャンネルで放送されていた「乃木坂46山崎怜奈 歴史のじかん」を基にした歴史本です。