いよいよ本日、『相棒season21』(テレビ朝日系)の放送が開始される。水谷豊演じる杉下右京の5代目相棒となるのは、寺脇康文が演じた初代相棒・亀山薫。この伝説のコンビ復活を記念して、今回は亀山薫のこれまでの経歴や活躍ぶり、その人柄など意外と忘れがちで知らないエピソードを紹介したい。
まずは、特命係に至るまでの経歴から簡単に振り返ろう。番組がまだ『土曜ワイド劇場』枠で放送されていたpre season1(以下、PS1)で登場した履歴書によると、1966年7月23日生まれの新潟県出身。高校は新潟県立阿賀野東高等学校、大学は城東大学法学部法学科を卒業している。警視庁に入庁後、90年9月に西千住署地域課に配属。以後、2つの所轄を経て95年4月に警視庁刑事部捜査第一課勤務となった。
そしてPS1にて“人材の墓場”特命係にやってくる。というのも、飲食店でたまたま指名手配犯と遭遇、当然捕まえようとしたが、逆に人質にされてしまった。犯人はそのまま籠城。大勢の警察官が包囲するも、犯人に拳銃を突きつけられた薫を前に手出しができず、膠着状態に陥ってしまう。その状況をテレビの生中継で観ていたのが、杉下右京だった。右京が亀山の携帯に電話を入れ、一計を案じたことで薫は無事に解放される。しかし、この失態が原因で特命係に追いやられてしまったワケである。
しかも記念すべき2人の初対面シーンは、ドラマチックでもなんでもなかった。荷物を抱えた薫が特命係の部屋に入ると、なんと右京が成人向けビデオ鑑賞をしていたのである。もちろん、裏ビデオの内容確認という仕事だ。初めて右京と対面した薫は元気良く挨拶し、助けてもらったお礼をするが、これに対して杉下は薫を助けるためではなく、狙撃犯から犯人の命を救うために電話をしたと明かす。続けて「テレビに映った君の姿は無様でしたよ」と、厳しく言い放った。
かたや帰宅すると薫も「偉そうにいいやがってよ!」と憤慨。さらに「インテリはどうも肌に合わねぇ」と納得がいかない様子だった。互いの第一印象は最悪だったワケだ。それでも右京は薫について「人柄は良さそうですが、すぐ頭に血が上るタイプみたいですね」とポツリ。続けて「しかし一方で、あの能天気さは評価できます」と冷めた目で分析していた。ところが、こうした正反対の性格が奏功したのか、そこから長きにわたって薫は“初代相棒”を務め、名コンビぶりをみせることになる。
ドラマで姿は見せずとも、右京と薫の絆は続いていた?
さて、薫といえばSeason7で警視庁を退職し、NGOのスタッフで殺害された友人の遺志を継いでサルウィン(南アジアにあるとされる架空の小国)に渡り、奉仕活動に従事する形で番組を一度卒業しているのは広く知られている。
だが、実はそれ以前に三度、特命係を離れていることをご存じだろうか。Season 1で一時的に警察庁長官官房付として警視庁に出向したほか、Season 2では特命係が復活するまでの間、警視庁の運転免許試験場勤務となっている。
また、Season 3で所轄の麹町東署捜査一係(強行犯係)に転属となっている(のちに特命係に復帰)。つまり、今回で4度目の復帰となるワケだ。さらにSeason 5最終話では懲戒免職処分に追い込まれたこともあり、このときは地方公務員法を逆手に取った右京の策略で処分撤回となっている。
ちなみに、薫がサルウィンに旅立ったあと、右京との交流を続けているような描写は一切なかった。ただ、Season 9最終話で政界の重鎮だった瀬戸内米蔵(津川雅彦)、Season 10でジャーナリストの卵となっていた守村やよい(本仮屋ユイカ)が、それぞれ薫の近況を右京に尋ねる場面がある。
Season 12では右京が捜査の際に人違いのふりをして薫の名前を使うシーンがあり、また別の回で名前こそ出さなかったものの、右京が薫の存在を3代目相棒の甲斐享(成宮寛貴)に語ったこともある。変わったところでは、Season 20で、動物の亀が作中に登場した際、右京が薫を思い起こさせるようなセリフを発している。
薫の優れた能力
次は薫の持つスペックについて見てみよう。明晰な頭脳と鋭敏な観察眼を持ち、鋭い推理力を発揮する右京に対し、根が真っ直ぐな熱血漢で体育会系の薫。野球のスポーツ推薦で大学進学を果たすほど運動神経に優れている一方で、頭を使うことがやや苦手でもある。Season 2では、島根県の県庁所在地を“松山市”と間違えたほど。
それでも、右京が感心するほどの能力を発揮することもある。その1つが、幼少期から好きだった昆虫に関する知識である。Season 4では右京以上の博識ぶりを発揮し、薫同様に“虫博士”と呼ばれていた鑑識課の米沢守と意気投合している。
味覚や嗅覚がかなり鋭敏な点も見逃せない。ワインの銘柄などに決して詳しいワケではないのに、Season 5ではワインの風味を的確に評価してワイン評論家を驚かせたり、キャビアの品質を見抜いたりしている。また、事件の凶器発見に貢献するなど、薫の舌が事件解決のカギになったケースが幾度となく見受けられた。たとえば、犯人は冷凍されていたイカを殺人後に料理に使い証拠隠滅を図るも、一口食べた薫は違和感を持ち、「味がおかしい」と指摘。そのため右京にも「君の舌は、ときに君自身よりも有能です」と褒められている。
さらに、右京と違って子供好きで、その扱いにも長けている。Season 5などでは、出会ってすぐの子供と意気投合して重要な証言を引き出すことに成功している。
霊感の持ち主である点も見逃せない。怪談や幽霊の類を苦手としているが、霊感のせいで、やたらとそういった話に縁がある。Season 3最終話では、“全裸の女性の幽霊”を目撃したことがきっかけで、白骨死体を発見したほどだ。ちなみに、右京も幽霊や超能力に関して否定しないどころか並々ならぬ関心を寄せており、心霊現象が絡んだ事件の際には嬉々として捜査に参加している。しかし、自身は実際に目撃した経験がないことを悔しがるのが“お約束”となっている。
薫の親族、人間関係
薫の親族についても触れておこう。実家は新潟県で造り酒屋を営み、市議会議員を務める父・勇と母・正枝、そして姉・茜(戸田恵子)がいることが明らかとなっている。母・正枝はSeason 3でシルエットのみ登場しているが、薫の幼少期の回想シーンでは深浦加奈子が演じていた。ちなみに、深浦は同話に前田房江という人物と二役で出演している。
現在の妻である奥寺美和子(鈴木砂羽)とは大学時代からの交際相手で同棲までしていたが、Season 3で美和子の浮気が発覚し、一度破局している(マンネリが原因)。その際の浮気相手は、院内紙記者の鹿手袋啓介(西村まさ彦)。元帝都新聞政治部記者で美和子の先輩社員でもあった人物だ。結婚直前の関係にまでなったこともあるが、Season 4開始時点で破局していた。
紆余曲折のすえ、薫と美和子はSeason 4の最終話で結婚するのだが、そのきっかけとなったのが、薫の姉・茜だった。なかなか結婚に踏み切れないでいる美和子に対し、薫は署名済みの婚姻届を渡していた。そこに夫婦ケンカをした茜が新潟からやってくる。茜は薫不在のときに偶然、美和子が落としていった婚姻届を拾ってしまい、そこに2人の署名があったことから、断りもなく提出。こうしてめでたく薫と美和子は夫婦となったのであった。
亀山夫妻は右京との付き合いが長かったこともあり、Season 5でプライベートの美和子の料理パーティに右京を招待したり、婚姻届の証人になってもらうなど、歴代相棒のなかでは、もっとも右京と交流が深かったのも特徴だ。
薫は事件関係者の切実かつ悲痛な想いを汲み取り、その人物に対して真実を曲げて伝えるなどしていた。これには頑なに真実を追及しようとする右京の意思を和らげる効果があり、「君がいつも側にいてくれて助かります」と感謝されたこともある。その信頼関係は絶大で、2代目相棒の神戸尊(及川光博)は配属当初に「君は亀山くんの代わりにはなれません」と言われたほどだ。
最後は亀山薫を演じる寺脇康文が挙げた“亀山薫のベストシーン”について。2006年11月に放送された『ぷれミーヤ』という番宣番組で挙げていたのだが、Season 2の『白い罠』というエピソードのラストである。薫は熱い男で、犯人を叱る、説得する、励ますなど熱く接している場面が多々あるが、この回のラストはいつも以上に熱い。
心を閉ざしていたある人物が、薫の言葉に動かされて思わぬ行動に出るのだが、これが感動のエンディングへと繋がっていく。この際、寺脇は演技ではなく思わず涙ぐんでしまうのだが、この姿が亀山薫のベストシーンだと語っている。情にもろく、流されやすい薫だからこそ、情で人を動かすことができるということを示した名場面。機会があればぜひチェックしてほしい。
ついに幕が上がる『相棒season21』。満を持して特命係に復帰する亀山薫の新たな活躍が楽しみだ。