医師が教える、インフルエンザに罹らないための「簡単な日常生活術」
治療薬
日本で承認されているインフルエンザ薬は「タミフル」「リレンザ」「イナビル」「ラピアクタ」「ゾフルーザ」の5種で、インフルエンザウイルスの増殖にかかわる酵素「ノイラミニダーゼ」の働きを阻害することによって、薬効を発揮する。
特に、「1日1回の服用で効果あり」と鳴り物入りで登場したのが「ゾフルーザ」である。
しかし、世界的な医学誌「The New England Journal of Medicine」(2018年9月6日付)に、12~64歳のインフルエンザ患者1432人を表のごとく3群にランダムに振り分け、症状の緩和までの時間(平均値)を比較した研究結果が発表されている。
これを鑑みると「ゾフルーザ」は「1日1回の服用で済む」(タミフルは1日2回、5日投与が原則)という点のみがメリットのようである。
漢方薬では、インフルエンザに「麻黄湯」がよく使われる。
インフルエンザ患者にそれぞれ、
(1)タミフル単独
(2)タミフルと麻黄湯を併用
(3)麻黄湯単独
を与えたところ、(1)に比べて麻黄湯を使用した(2)(3)のグループでは発熱時間が有意に短縮した、という研究もある。タミフルなどの抗インフルエンザ薬(化学薬品)は特に年少者に用いると、「異常行動」などの副作用が表れることがある。しかし、「麻黄湯」は体温を上昇させて免疫力を高めて抗ウイルス作用を発揮するので、副作用もほとんどない。
そもそもインフルエンザが「怖い病気」と思われているのは、第一次世界大戦時にアメリカ軍がヨーロッパに持ち込んだインフルエンザウイルス(スペイン風邪)によって、大戦戦死者の約80%が亡くなったという史実があるからだ。その後、全世界に広がり、約3000万人の死者を出し、日本には1919(大正8)年に上陸し、当時の人口の3分の1が罹患し、30万人の死者が出た。
インフルエンザはもともと「流行性感冒」ともいわれ、「風邪症候群」のひとつである。風邪は英語で「cold」(冷え)といわれるので、日常生活で体を温める運動や入浴、サウナの励行、体を温める食物の摂取(熱燗の日本酒、すき焼き、熱々のうどんに七味とすりおろし生姜を存分にかける、熱い味噌汁、熱い紅茶など)を心がけるとインフルエンザを予防できる。風邪の治療薬として「葛根湯」が有名だが、「葛根湯」は「麻黄」「桂皮」「甘草」という「麻黄湯」の成分に、強力に体を温める作用がある「葛根(クズの根)」「生姜」「大棗(ナツメの実)」「芍薬(シャクヤクの根)」を加えてできたもので、インフルエンザの予防や治療の大きな助けになる。
薬剤師に葛根湯を処方してもらい、インフルエンザや一般の風邪の予防のために、熱い湯か紅茶で予防的に服用されるとよい。ただし、インフルエンザに罹患した場合、「葛根湯」より「麻黄湯」のほうが格段に効く。漢方薬は構成生薬が少ないほど効きが鋭いからである。
なお、日頃「汗かき」の人には麻黄湯や葛根湯は効かない。「葛根湯」から発汗促進成分である「葛根」と「麻黄」を抜いた「桂枝湯」が効く。
(文=石原結實/イシハラクリニック院長、医学博士)