肝炎を引き起こす肝炎ウイルスにはA、B、C、D、E型の5つがあります。この中で、B型やC型は肝炎から肝硬変、そして、肝がんへと進行することでよく知られています。ただ、2014年、15年と立て続けに新薬が登場し、C型肝炎は「99%治る時代」が到来したのです。それも、これまでのような途中で治療をやめる人の多い苦しい治療ではありません。
その喜びもつかの間、今度はE型肝炎が増えているというのです。E型肝炎はE型肝炎ウイルスが原因で、発症すると「熱が出る」「倦怠感」「食欲不振」「吐き気」などの症状が出ます。ときに劇症肝炎を引き起こすこともあり、こうなると死亡リスクが極めて高くなります。その一方で、感染してもほとんど症状もなく経過するケースも少なくありません。
このE型肝炎ウイルスは「汚染された水」「生肉」「感染者の便」などが感染経路となり、世界では約2000万人が感染し、300万人が発症、そして、死亡者が7万人という数字がでています。
日本の14年のE型肝炎感染者は約150人。それが15年は1.3倍のペースで増えているのです。そして何より、これまでは「E型肝炎は慢性化しない」とされていたのが、15年9月に「E型肝炎の慢性化が確認された」のです。
慢性化するとその先には肝硬変、肝がんが口を開けて待っています。B、C型肝炎ウイルスが命にかかわるといわれてきたのは、慢性化が大きな原因です。まだ感染者が少ない、と他人事のように思っていると怖いことにもなりかねません。しっかりできる予防は行うのが一番。
感染者から感染経路を特定できたのは「豚、鹿、イノシシなどの加熱不十分な肉を食べた」こと。日本国内もあれば、海外でという人もいました。
加えて大きな問題として、慢性化事例は輸血での感染だったのです。それも肝臓疾患の治療として肝移植を受けた際の輸血が原因でした。日本では、輸血用血液についてE型肝炎ウイルスのチェックは行われていません。肝炎ウイルスは輸血が大きな問題となったのは論じる必要もありません。
このチェックはすぐにでも実施すべきです。海外では60%の人が慢性化しているとの報告もあります。生肉を食べない以外に、やはり早急に輸血用血液のチェック体制をより厳しくするのが重要。2度と同じ轍を踏んではいけません。
(文=松井宏夫/医学ジャーナリスト)