暖かい地域では3月から「初ガツオ」として食卓に上るカツオは、古くから世界中で食されてきた栄養豊富な魚です。日本では4~5世紀の大和政権時代から、干物が高級食材として献上されていた記録が残っており、東ティモールのジェリマライ遺跡では約4万年前の地層から、カツオの骨が貝でつくられた釣り針と共に出土しています。
「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」
これは、江戸時代の有名な俳人・山口素堂が、春から初夏にかけて江戸の人たちが好んだものを詠んだ句です。江戸時代、カツオは「家族を質に入れてでも食べろ」といわれるほどの大ブームを巻き起こしました。
冒頭の初ガツオとは、日本近海に回遊してきたカツオが、その年、その地域で最初に水揚げされたもの。九州では3月、本州沖では4月から水揚げが始まり、5月から初夏にかけて最盛期を迎えます。
「質に入れてでも」という言い方からわかる通り、冷凍や輸送の技術が発達していなかった江戸時代の初ガツオは、とても高価なもので、庶民にとっては高嶺の花でした。そのため
「目と耳は タダだが口は 銭がいり」
と、皮肉混じりに返句されるほどの存在だったのです。
カツオ節は世界一硬い食べ物だった?
カツオの調理方法として人気の高い「たたき」は、低脂肪・高たんぱくということもあり、初ガツオを味わうにはぴったりです。骨の新陳代謝を改善するビタミンD、エネルギーを生み出すビタミンB、血圧と血中のコレステロールを下げるタウリンなどを、効率的に摂取することができます。
秋に水揚げされるカツオは、初ガツオに比べて脂肪が約12倍に増えており、食欲をそそる旨みが増しています。一方、その他のビタミンやミネラルはほぼ同じか減っているため、健康志向の人は、秋よりも初ガツオのほうがおすすめです。
また、最近はカツオ節も、高機能食品として世界的に注目を集めています。カツオ節は「世界一硬い食べ物」といわれていますが、金づちの代わりに釘が打てる食べ物は、世界広しといえどもカツオ節ぐらいではないでしょうか。
カツオ節のおいしさと硬さの秘密は、水分を搾り出す製法にあります。3カ月以上をかけて伝統的な製法で加工され、最終的に水分は魚肉の十数%になるまで搾り取られます。残ったわずかな水分の中に、カツオ節の旨味成分であるイノシン酸とグルタミン酸がギュッと濃縮されているのです。