カツオ節に多く含まれる、ナイアシンの意外な効能
さて、カツオ節に含まれる機能性成分として、ここ数年注目されているのがナイアシンです。これは、ビタミンB3と呼ばれることもあります。
ナイアシンは米や肉に多く含まれていますが、圧倒的に含有量が高いのがカツオ節です。レバーもナイアシンを豊富に含んでおり、「鉄分を摂取できて貧血に効果がある」といわれますが、実はカツオ節の3分の1程度しか含まれていません。
ナイアシンは全身でいろいろな役目を担っていますが、主な役割は酸化還元という化学反応の促進です。私たちの体内は「酸化還元の化学工場」といってもいいほど、食べ物からのエネルギーの取り出しや、呼吸、解毒など、あらゆるところで酸化還元反応が起きています。
一般的な化学工場では、高い圧力や温度で酸化還元反応を行っていますが、私たちの体が自然な状態で酸化還元反応を適切に行うことができるのは、酵素とナイアシンが細胞内でペアになって、化学反応を加速する役目を担っているからです。
また、アルコールの分解も酸化還元反応の一種です。お酒を飲むと、解毒反応として肝臓でアルコールが分解されますが、その過程でアセトアルデヒドという有害成分ができてしまいます。
アセトアルデヒドは悪酔いの原因物質でもありますが、この分解にナイアシンが関係しており、お酒を大量に飲むと、肝臓は大量のナイアシンを要求します。
例えば「とうもろこしばかり食べている」など、極端に偏った食生活をしている人が、大量飲酒で肝臓のナイアシン不足に陥ってしまうと、ペラグラという病気になってしまいます。
これは皮膚の炎症に始まり、嘔吐や下痢など消化器系疾患の症状が表れ、やがて脳が壊れて死に至る病気です。日本でも、米やカツオを食べないアルコール中毒患者にペラグラを発症するケースが見られます。
春はヘルシーな高機能食品、秋には「食欲の秋」にぴったりの高脂肪食品と、季節によって姿を変えるカツオ。約4万年前の人たちが、沿岸に簡単に捕まえられる魚がいたにもかかわらず、困難な漁を行ってでもカツオを食べていたのは、きっと、その有効性に気付いていたからなのでしょうね。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 環境安全部製品安全グループ 主席部員)
【参考資料】
『食べ物はこうして血となり肉となる~ちょっと意外な体の中の食物動態~』(技術評論社/中西貴之)
「ナショナル ジオグラフィック 日本版 2014年12月号」(日経ナショナル ジオグラフィック)
「文部科学省 五訂増補日本食品標準成分表」