今回は、少し早い気もしますが、冬に着る物に関するお話です。夏から秋に、それから冬に向かって、どんな服装で迎えるかは悩ましいところですね。
“極論君”は「 厚着をする」という主張です。
「最近は体温が高いほうが健康にいいという情報をよく見聞きします。だから、これから寒くなる季節はしっかりと防寒に努めて、暖かさを逃がさないような服装を心がけるのです」という論調です。
一方で、“非常識君”は「冬でも薄着でがんばります。大人だから半ズボンはちょっと無理だけど、薄着で半袖で過ごします」という主張です。「昔から元気な子供は冬でも半ズボン、半袖で学校に通って、元気に遊んでいました」という論調です。
“常識君”がコメントします。
「まず、体温は基本的に子供は大人よりも高く、お年寄りになるに従って低下していきます。子供を抱けば温かいと感じるでしょうし、またお年寄りの手を握れば通常は少々冷たく感じます。体温の設定温度がだんだんと下がっていくことは生理的な現象です」
極論君が質問します。
「体温は、高いほうが健康には良いのではないのですか?」
常識君の解答です。
「いざというときに体温を上げられればいいのです。風邪やインフルエンザのときは、体温を上げて免疫力がより働きやすくするのです。ですから、風邪やインフルエンザのときに適切に発熱できないと病気は長引きますし、また、無理に体温を下げると治りにくくなるのです」
個人個人に適切な体温がある
そして常識君の解答が続きます。
「通常時の体温が高いほうがより健康なのかは、まだ不明です。90歳以上の人は200万人近くおり、体温は通常はあまり高くはありません。ですから一概に高体温がより健康とはいえないでしょう。むしろ個人個人に適切な体温があると理解しましょう」
極論君が言います。
「高体温と低体温のどちらが体に良いかはっきりしないのであれば、僕は高体温を希望します。だからこそ、たくさん着込んで温かくするように心がけています」
常識君のコメントです。
「たくさん着ると、汗が出ますよね。汗は体温を下げてほしいという体の要求から出るのです。ですから、もしも着込むのであれば、汗が出ない程度にすることが肝要です」
非常識君が言います。
「乳母車の中でたくさん着せられて、ミノムシのようになっている子供をしばしば見かけるようになりました。親の過保護に思えます。あれでは汗をかいて、かえって体温が下がるようにも思えます」
常識君のコメントです。
「子供も同じで汗をかけば、そしてそんな濡れた状態で冷たい低湿度の外気に当たれば、気化熱で体温が奪われてしまいます。くれぐれも汗をかかないことが大事ですね」
そして非常識君の発言です。
「だから、僕は冬でも薄着で半袖がいいと主張しているのです。筋骨隆々な人が、冬でもTシャツ一枚で振る舞っているのはかっこいいではないですか」
汗をかかない程度の重ね着
常識君のコメントです。
「まず冬でも薄着でいられるということ自体が、自分の適正な体温を維持できるシステムが効率的に働いている証拠です。つまり元気ということです。筋肉はストーブです。そして食べ物がエネルギー源です。末梢まで温かい血液を運ぶ血流の存在も大切です。たくさん食べて、たくさん燃やして、温かい血液を末梢まで送れるからこそ元気なのです。元気な子供はそうですよね。寒い冬でも薄着で、外で遊べます」
そして常識君の追加コメントです。
「ところが大人になると体は節約モードになるのです。せっかくつくった熱は手足で消費しないように手足の血流を絞ります。ですから手足は冷たくなるのです。また、体温も少々低めに設定することによって、無駄なエネルギー消費を回避します。ですから、子供のようにうまく熱をつくれて、回せる体を持っている人は薄着で良いのです。それができない人は、適切な体温保持を心がけましょう。適切というのは、汗をかかない程度の重ね着ということです。」
極論君がいいます。
「寒いときにはどんどん使い捨てカイロを使うのです。腹巻きをして、お腹と背中の部分にカイロを入れるのは効果的ですよ」
常識君が賛成します。
「その腹巻き+カイロ作戦はとてもよい方法ですね。ところが、寒がりの人のなかには使い捨てカイロを10枚以上一度に貼っている人もいます。そんな人の多くは実は汗をかいています。それでは体は冷やして欲しいモードに入っているので、逆効果なのです。くれぐれも、汗をかかない程度の保温やカイロの使用を心がけましょう」
(文=新見正則/医学博士、医師)