仕事が忙しすぎて恋愛や結婚さえ後回しになるような働き盛りの人は、どうしても夕食も遅くなり、ついつい「夜食」をとりがちだ。なかには、お酒を飲んだ後の「締めのラーメン」が習慣化している人も多いだろう。
しかし、夜遅い時間にたくさん食べることが習慣化すると、将来的に健康リスクが非常に高くなると指摘する専門家もいる。これは「夜食症候群」と呼ばれ、一種の生活習慣病なのだ。具体的には、「1日の摂取カロリーのうち、25%以上を夕食や夜食でとる」ような人は要注意だろう。
筆者を含め、「なんとなく体によくない」と思いながら、多くの人が習慣にしてしまっている夜食の危険性について、専門家に聞いた。
夜食の習慣化が糖尿病や睡眠障害を誘発も
「『夜食症候群』とは、『生活習慣病』『メタボリックシンドローム』と同様の注意喚起的な病名で、『心筋梗塞』などの病気とは異なります。しかし、夜遅くに多めの食事をとってしまう習慣は、肥満などメタボの原因になるほか、将来的には、動脈硬化や高血圧などの生活習慣病、脳梗塞や脳出血など心血管系の病気にかかりやすくなるリスクを高めるのです」
そう語るのは、医学博士で日本小児科学会認定専門医の清益功浩氏だ。ふだん、人間の脂肪細胞は食欲を抑制してエネルギー代謝を高める「レプチン」というホルモンを出している。ところが、清益氏によれば、夜食が習慣化するとレプチンの作用が著しく低下してしまうために、より食欲が増し、さらに夜食が食べたくなる悪循環に陥ってしまうという。
加えて、睡眠中は体の代謝も低下するので、寝る前に夜食をとると、その分の余ったエネルギーが脂肪として蓄積されやすくなり、肥満化に拍車がかかる。しかも、レプチンの作用は一度低下しても食生活を改善すれば徐々に元に戻るが、夜食の習慣化によってレプチンの作用が長時間低下したままになると、戻すまでに時間がかかるのだ。
「夜食症候群のなかには、睡眠中に起きて何かを食べたくなったり、実際に食べてしまったりする人もいます。この段階になると、常に食べていることで高血糖の状態が続いているため、肥満がなくても、インスリンの分泌に負荷がかかって糖尿病を発症する可能性もあります」(清益氏)
そして、さらに注意が必要なのが、夜食とアルコールの組み合わせだ。寝る前につまみを食べながらお酒を飲む習慣のある人も多いだろう。しかし、清益氏は、アルコールを摂取しながらの夜食も「夜食症候群の一因になります」と語る。
特に「締めのラーメン」など炭水化物中心の夜食をとると、高血糖の状態になって、やはり糖尿病リスクが増加する。そればかりか、寝る前の高血糖状態は睡眠中も続くため、睡眠障害まで引き起こしかねないという。
寝る前3時間以内の食事は注意!OKな食べ物は?
そもそも、ひと口に「夜食」といっても、夕食との違いなど、具体的にどの時間帯の食事を指すのかわからない人も多いだろう。清益氏は、夜食を「寝るまでの3時間以内にとる食事」と定義する。
「睡眠時間を8時間、1日の残り16時間の間に4~5時間の間隔を空けて規則正しく3食とるとします。睡眠時に適度な胃の状態にするには、就寝の3時間前までに夕食をとることが望ましいとされているので、そう考えると、寝る前3時間以内の食事が『夜食』ということになるわけです」(同)
しかし、清益氏は「必ずしも、夜食そのものが悪いわけではありません」と言う。たとえば、胃が空っぽの状態では脳に血液が多くいくため、睡眠の妨げになる。適度な夜食をとることで、眠りに入りやすくなる面もあるわけだ。では「適度な夜食」をとる場合、どのようなものを食べればいいのか。
「どうしても寝る前に何か食べたいときは、低カロリーで低脂質、低炭水化物で、消化のいい良質なたんぱく質をとってください。具体的には、かまぼこ、豆腐、納豆、野菜、おでん、春雨などが該当します。果物も悪くはありませんが、糖分を含むので食べすぎないほうがいいでしょう」(同)
夜食の習慣がある人は、少しずつ改善していく以外になさそうだが、筆者をはじめ生活リズムが夜型になっている人が夜食の習慣を改めるのは、容易ではない。
「重要なのは、カロリーを消費しやすい状況の前にしっかり食べること。一般的に朝食が大切とされているのは、そういう理由からです。そして、炭水化物、たんぱく質、脂肪のバランスがとれた食事を心がけること。夜型の人は、睡眠時間にもよりますが、せめて就寝の2時間前には食事をとらないことから意識してみてください」(同)
夜食が一度習慣化すると悪循環に陥り、正常な食生活に戻すのが困難になる。しかし、肥満や糖尿病などのリスクを回避するためにも、思い当たる人は早めに改善したほうがよさそうだ。
(文=青柳直弥/ライター)