税金を使うほどの効果があったのか?
これらのキャンペーンは、国(または州)を挙げての取り組みで、税金を用いて行われた。このようなキャンペーンを行う理由は、「国民病である腰痛で苦しむ人が少なくなるように」というのが本来の目的だ。
しかし、腰痛を自分で管理することができれば医療費が安くなり、結果的には国の支出が少なくなるという考えのもとで行われている。
これらのキャンペーンの結果、それぞれの国では、腰痛に対する国民の考え方に変化が生じている。具体的には、腰痛での労災や医療費が削減されたという論文が発表されているのだ。
さらに興味深いのは、一般人だけではなく、医者や理学療法士など医療従事者の腰痛に対する考え方が変化したという報告だ。腰痛に対して安易に薬を処方する医師が減り、手術件数も減ったのだ。
腰痛の治療については、医療機関だけで行われるわけではなく、このように国を挙げて行うことで、医療機関を訪れない一般人に対しても、その正しい知識を広めることができた。それは医療費の削減とともに、国民を腰痛から救うことにつながる。
そのような意味では、日本はまだまだ「腰痛後進国」であり、このような取り組みを行っていく必要があるのではないだろうか。
(文=三木貴弘/理学療法士)
参考文献:
Buchbinder, R. (2008). Self-management education en masse: Effectiveness of the Back Pain: Don’t Take It Lying Down mass media campaign. Medical Journal of Australia, 189(10 SUPPL.), 29–32.
連載「“国民病”腰痛の8割以上はなぜ治らないのか」バックナンバー
三木貴弘(みき・たかひろ)
理学療法士。日本で数年勤務した後、豪・Curtin大学に留学。オーストラリアで最新の理学療法を学ぶ。2014年に帰国。現在は、医療機関(札幌市)にて理学療法士として勤務。一般の人に対して、正しい医療知識をわかりやすく伝えるために執筆活動にも力を入れている。お問い合わせ、執筆依頼はcontact.mikitaka@gmail.comまで。