5月から初夏にかけての季節の変わり目に多くなるのが咽頭痛(喉の痛み)だ。
英国オックスフォード大学のGail Nicola Hayward氏らの研究グループは、抗生物質を必要としない咽頭痛の成人患者565人を対象に、ステロイド薬を単回経口投与したところ、患者の約3分の1に症状の改善が見られたと『Journal of the American Medical Association(JAMA)』(2017年4月18日号)に発表した(「HealthDay News」2017年4月18日)。
発表によれば、研究グループは、大用量(10mg)のステロイド薬デキサメタゾンを単回投与群(288人)またはプラセボ群(277人)のいずれかに無作為に割り付ける二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験を行った。被験者の半数が34歳未満だった。
その結果、投与24時間後は、ステロイド群とプラセボ群の間に症状の回復に有意な差はなかった。しかし、投与48時間後は、ステロイド群の35.4%(102人)、プラセボ群の27.1%(75人)がそれぞれ回復したことから、両群に有意な差が認められた(相対リスク:1.31、95%信頼区間:1.02~1.68)。
だが、米国ノースウエスタン大学医学部(シカゴ)のJeffrey Linder氏は、投与48時間以内に回復した患者は、ステロイド群の約3人に1人にすぎないので、患者が3分の1という低い回復率を信頼して受診するとは考えにくいと指摘する。
また、米国アラバマ大学(バーミンガム)内科学教授のRobert Centor氏によれば、咽頭痛は死亡や集中治療室(ICU)入院に至る危険な病態もあるため、ステロイドによって症状を抑えると深刻な病態の発見を見逃すリスクがあると説明する。
咽頭痛で受診する患者は多く、しかも薬剤耐性菌の増加が懸念されるため、経口ステロイドなどの抗生物質に代わる治療法の開発が喫緊の課題だ。咽頭痛の患者に経口ステロイドの処方は、許容されるのだろうか?
小児や若者に多い咽頭痛の原因は、60%がウイルス性、40%が細菌性
咽頭痛の主原因は、風邪のウイルス(アデノウイルス、インフルエンザウイルス、溶連菌など)によるウイルス性疾患(風邪症候群)だ。その他、細菌、ストレス、睡眠不足などによっても発症する。60%がウイルス性、40%が細菌性とされ、特に小児や若者に好発する。
発症すると、喉頭や扁桃腺が赤く腫れるため、食べ物や唾を飲み込むと不快な痛みを感じ、頭痛・鼻汁・発咳・発熱・倦怠感・関節痛などを伴う。
咽頭痛は、咽頭がん、喉頭がん、悪性リンパ腫のほか、全身性エリテマトーデス(SLE)、川崎病、天疱瘡などの自己免疫性疾患、大動脈解離などによって誘発するケースもあるので要注意だ。カラオケ、喫煙、飲酒、鼻づまりによる口呼吸で起きる時も少なくない。
また、扁桃腺の腫れがひどい場合は、気道閉塞による呼吸困難をはじめ、慢性喉頭炎、扁桃周囲膿瘍、喉頭蓋(気管の入り口で開閉する粘膜)が腫れる急性喉頭蓋炎、killer sore throat(死を呼ぶ咽頭痛)と呼ばれるレミエール症候群、舌の下の部位に炎症が起きる口底蜂窩織炎(こうていほうかしきえん)などの重篤疾患のリスクも高い。
なお、溶連菌感染の場合は、全身に発疹が現れる猩紅熱(しょうこうねつ)を発症する。頸部腫脹、大量の汗による強い悪寒がある場合も、深刻な疾患の可能性があるので、喉の痛み以外に症状がない場合でも油断できない。