意外なところから意外なものが出ることを諺で「瓢箪から駒(が出る)」という。類義語として「棚から牡丹餅」や「嬉しい誤算」「偶然の産物」などがあるが、4月26日付「JAMA Psychiatry」に掲載された最新知見は、いわば「法律から乱用」という「意図しない副産物」の米国事情を明らかにした。
医療大麻を認める法律で法使用が増加
トランプ政権下の米国では現在、計50州中29の州で「医療大麻」が許可されており、8州では「嗜好用大麻」も合法となっている。ところが前者の医療大麻を認める法律の影響(=副産物)によって、大麻の違法使用(=乱用)が増加する可能性が新たな研究によって示唆された。
研究を主導したのは、米コロンビア大学メイルマン公衆衛生学部疫学教授のDeborah Hasin氏。
彼ら研究陣の報告によれば、医療大麻法の施行されている州においては、ほかの州との比較で大麻の違法使用の発生率が有意に高く、生活に支障が生じていても大麻の使用をやめられない「大麻使用障害」の増加傾向が認められた。
Hasin氏いわく、医療大麻法の流布が「大麻の使用は安全である」との暗黙のメッセージとなり、その影響で「より気軽に」大麻を使用する人々が増えている。
その結果「使用障害」が急増しているとなれば、それは「嬉しい誤算」でも「偶然の産物」でもなく、法律から生まれた「想定内」の「意図しない副産物」といえるだろう。
医療大麻法の影響で乱用が約110万人も増加
研究に際しては、国による3回の調査(期間:1991~2013年)から得られた成人データ(11万8000人)に基づいて解析が行われた。
ちなみに、調査開始の1991年には、まだ米国内のいずれの州にも医療大麻法は存在しなかった。それが2012年を迎えるまでには米国人のおよそ3分の1相当が、同法の施行された州内で暮らすように推移してきたという。
その影響度を明かすべく研究班が解析を行った結果、医療大麻法の合法州では、そうでない州との比較において「違法使用」が1.4ポイント高く、憂慮すべき「大麻使用障害」に関しては0.7ポイント高かった。
後者の現象は当然ながら、「嗜好用大麻」が完全に合法化されている8州において、さらに濃厚な傾向を生んでいた。
解析結果を踏まえたHasin氏らの推計によれば、医療大麻法の影響とおぼしき成人の違法使用は約110万人もの増加につながり、大麻使用障害は新たに約50万人の増加が読み取れた。
その理由を日本人は想像しがたいだろうが、典型的な例はこうだ――。
前述のごとく、同法効果で「安全神話」が大衆間に流布し、その暗示性を根拠に生活上の不安やうつ病などの緩和手段として飲酒の際に大麻を嗜む人が増えている。さらに、ランド研究所ビング医療救済センターのRosalie Pacula氏の見解によれば、「医療大麻を扱う調剤薬局が増えたことも、違法使用の大きな要因である」と指摘する。
Pacula氏が語るところでは、調剤薬局の数を制限し、規制も厳格な州においては違法使用の率も異なるという。つまり「法律による医療大麻産業の商業化、その余波がまんま嗜好用大麻市場に及んでいる傾向が否めない」と同氏らは視ている。
医療現場のプラス面の効果を訴える意見も
一方、彼らの報告とは対照的な知見もある。
ある先行研究では、医療大麻プログラムの施行後も「10代での大麻使用は増加していない」との報告がなされており、成人と10代という調査対象層の違いはあるものの後者の傾向も見逃せないだろう。
大麻合法化団体NORML(The National Organization for the Reform of Marijuana)のPaul Armentano氏も「医療現場での実際の経験からプラス面の効果は明らかだし、大麻を合法的に製造して販売しても公衆衛生全体に悪影響を及ぼすことはない」と、擁護の立場から述べている。
増加する調剤薬局の影響を指摘した前出のPacula氏も、最新研究の留意点を挙げている。つまり今回の場合、「全米調査」のデータに基づいて「州レベルの傾向」を評価しているため、その判断においては慎重さを要するという。
たとえば、カリフォルニア州では大麻使用の減少(1991~2002年)が読み取れるなど、「疑わしい部分がないことはない」と指摘する。「州別」のデータを用いて解析した場合も、はたして同様の結果が得られるのかどうか、「それを確認したい」とPacula氏は語る。
今回は海の向こうの「意図しない副産物」現象を紹介したが、2020年東京五輪・パラリンピックを控えた日本では、「たばこのない五輪」実現さえ自民党一部議員らの抵抗にあって燻っている有様で、依然として「煙から疾患」の悪影響が見て見ぬふりをされている。情けないかぎりだ。
(文=ヘルスプレス編集部)