溺れた者にAEDは予後が悪化?
「現場に居合わせた人が救急車の到着前にCPRを開始した場合、溺れた人が事故前とほぼ同じ生活に戻れる可能性が高まる」とTobin氏は結論づける。
しかし一方で、AED(自動体外式除細動器)による処置を受けた場合、どういうわけか溺水者の予後は悪化するようだったという。
日本蘇生協議会が作成した『JRC蘇生ガイドライン2015』によると、AEDを使用する場合でも、患者の通常の呼吸が戻るまで、あるいは救急隊に引き継ぐまでは絶え間なく胸骨圧迫を続ける必要がある。
Tobin氏は「AEDを使うと神経学的予後が悪くなる可能性が示されたが、理由を説明することは難しい」と前置きしたうえで、「もしかするとAEDの使用によってバイスタンダーのCPRの質が低下したり、途切れたりしたからかもしれない」と推測している。
バイスタンダーのCPRが心停止からの回復に重要な役割を果たすというエビデンスは蓄積しつつあり、今回の研究もそのひとつとなる。
「多くの人にCPRを学んでもらいたいが、CPRを知らなくてもできることはある。心停止を目撃したら救急車を呼び、1分間に100回の胸骨圧迫を行うことだ。それによりその人の命を救える可能性がある」とTobin氏は述べている。
疑わしきは「胸骨圧迫」で生存率が上がる
『JRC蘇生ガイドライン2015』によれば、傷病者の呼吸が正常なのか、停止しているのか判断に迷ったときも、直ちに胸骨圧迫とAEDの使用を推奨。とにかく「疑わしきは胸骨圧迫」ということだ。
成人への胸骨圧迫のやり方は、手の付け根を胸骨の下半分に置き、もう片方の手を重ねて指を交互に組む。肘をまっすぐに伸ばし、手の付け根に体重をかけて圧迫する。小児の場合は片手で、乳児は2本指で行う。その際のポイントは以下の通り。
●胸が約5cm沈むように圧迫し、6㎝を超えないよう注意する。小児や乳児は胸の厚さの約3分の1の深さに。
●1分間に100~120回のテンポで、絶え間なく行う。
●毎回、圧迫したら完全に胸の高さを元の位置に戻す。
●AEDを使う際や人工呼吸での中断は最小限に(10秒以下)。CPRの6割は胸骨圧迫の時間となるようにする。
●バイスタンダーが数名いる場合は、押す深さやテンポが変わっていないか互いに確認しつつ、1~2分ごとに交代しながら行う。
繰り返しになるが、CPRにおいて胸部圧迫は絶え間なく続けるもの。最低限の知識を得るだけでも違うかもないが、できれば自治体の救命講習を受けるなどして、普段から正しいCPRを身につけておくべきだろう。
大切な家族や友人を水の事故から守るためにも、レジャーシーズンを前に考えてみてはいかがだろうか。
(文=ヘルスプレス編集部)