声をかけるまで着用しない客
次に、普段から東京駅(丸ノ内/八重洲口)でつけ待ちしているという個人タクシーのドライバーに話を聞いた。場所柄、複数人の上京組を乗せる機会が多いそうだ。
「助手席に座った人が、声をかけるまで着用しない例が意外とあるんですよ。危機意識もどこか牧歌的なのかな。『警告音が鳴ってしまうので締めてください』と呼びかけ、さらにふり向いて『道交法違反になるので』と後部座席の方々にもお願いするということが頻繁にあります」
昨秋、JAF(日本自動車連盟)と警視庁が協力して実施した『シートベルト着用状況全国調査』によれば、一般道でのシートベルト着用率は、後部座席は35.1%で、運転席98.4%、助手席94.6%との安全意識の違いが明確に読み取れた。
シートベルトを着用せずに交通事故に巻き込まれた場合「損害減額」も
ちなみに2015年中に発生した後席乗車中死者152人中、「非着用者」は105人(約69.1%)を占め、うち32人(30.5%)が「車外放出」で死んでいる。
「外国人旅行者の場合は近場利用でも、自ら無言で着用してくれる。自己責任が『常識』なんですよね。日本人の場合は着用する際にもあれこれ、ぶつぶつ言う人が減らない。ああいう無駄口が消えない限りはシートベルトが『常識化した』とはいえないでしょう」(法人タクシー)
このプロの見解から得る教訓は、家族/知人らを乗せてハンドルを握るマイカー族こそ心して学ぶべきだろう。梅雨時のスリップ事故、夏休み中の行楽・帰省ドライブにおける追突事故、あるいは地理に不慣れな地方組やサンデードライバーが繰りだす休日の一般道。万が一の事故が起きた際、シートベルトが同乗者の明暗を分ける可能性は高い。
そういう備えに無頓着の人々に意外と知られていないのが、自らの「落ち度」から「過失相殺」として一般的に損害の5~10%が「控除」されるという判例事情だろう。
つまり判例上、シートベルトを装着せずに交通事故に巻き込まれた際、相手(被告)側への損害賠償請求額も減額(過失相殺)されてしまう傾向があるのだ。
前掲の個人タクシードライバーの言葉を借りれば、「安全意識が牧歌的」なのは何も地方在住組の特徴なのではなく、(不満付き着用者を含む)シートベルト非着用者の「自分は大丈夫」という根拠なき自信が牧歌的なのだろう。
(文=ヘルスプレス編集部)