暖かくなったと思ったとたんに季節外れの猛暑が始まり「爽やかな春はどこへ?」という声も聞かれた今年――。6月6日の総務省消防庁の発表によると、5月29日から6月4日までの1週間に「熱中症」で救急搬送された人は全国で1086人。昨年の同時期と比べて約2倍の搬送者数となり、都道府県別では東京が101人で最も多かった。
今年の夏は例年以上の暑さが予想されており、熱中症への警戒が呼びかけられている。ご存じの通り、熱中症による死亡者数が最も多いのは「65歳以上」の高齢者で、死亡全体の7割超。そのうちのほとんどが住居で発生したものだ。
一方、働き盛りの年代では、職場で熱中症になるケースも少なくない。特に建築現場など屋外の炎天下や、冷房の効かない工場で作業をする人たちにとっては、夏場の熱中症は切実な問題だ。
職場での死者・重傷者は毎年400〜500人
厚生労働省によると、過去10年間(2007〜2016年)の職場での熱中症による死亡者数と、熱中症により4日以上休業した人の数を合計した「死傷者数」は、2010年が656人と最多だ。この年は記録的な猛暑で、日本全体で史上最悪の1731人が熱中症により死亡している。
しかし、職場の熱中症による死傷者は2011年以降も400〜500人程度で推移。昨年の死亡者数自体は12人で、その前年に比べて17人減少したが、全体の死傷者数は462人。2010年からずっと高止まりの状態だ。
過去5年間の業種別死傷者を見ると、どの年でも「建設業」が最も多く、次いで「製造業」で、全体の約50%がこれらの業種で発生している。以下、運送業、警備業、商業と続く。そして熱中症による死亡者は7人(約60%)が建設業で発生。月別では約90%が7〜8月に発生している。
昨年、熱中症で死亡した12人の状況を見ると、暑さの指数である「WBGT値(暑さ指数)」の測定を行っていなかった(12人)、計画的な熱への順化期間が設定されていなかった(9人)、事業者による水分および塩分の準備がなされていなかった(8人)、健康診断が行われていなかった(5人)などがある。
このことから、作業管理において基本的な対策が取られていなかった実態が浮かび上がる。
日常生活でも体を暑さに慣れさせる「熱暑順化」を
WBGT値とは、「気温」「湿度」「輻射熱」から導き出される、暑さストレスの目安となるもの。熱中症の危険度を判断する数値として2006年以降、環境省から情報提供されており、HP上で各地の実況推定値も公開されている(参考;環境省「熱中症予防情報サイト」)。
単位は気温と同じ「℃」だが、「気温:湿度:輻射熱」の及ぼす効果が「1:7:2」となり、とりわけ湿度の影響が大きく反映される指標だ。事業者はこのWBGT値を把握し、それに基づいた作業計画づくりが求められている。
たとえば「軽い手作業」「釘打ち」「ブロックを積む」などの作業強度に応じて、悪影響を受けないとされる基準値がある。それを超えると熱中症にかかる可能性が高くなるため、空調を使ったり、作業強度を下げたりするなどの対策が必要だ。
また、作業者が初めて高温多湿な場所で作業をするときは、7日以上かけて計画的に作業時間を長くし、体を暑さに慣れさせる「熱暑順化」が重要になる。
梅雨明けまで暑さに体を慣らす
熱暑順化の大切さは強度の強い作業をする人のみならず、私たちの日常生活においても同じだ。かつては誰もが梅雨時の蒸し暑さにさらされて順化したが、冷房のある環境が増えた今は、積極的に順化するための対策が必要だ。
たとえば運動や入浴で夏が来る前によく汗をかくこと。梅雨明けまでに順化しておけば、熱中症にかかるリスクをぐんと下げることができる。
政府は職場での熱中症について、2013〜2017年の死傷者数をその前の5年間から20%以上減少させる目標を設定してきた。しかし、今年1月の時点ですでに目標件数を上回り、80人超の労働者が死亡している状況だ。
このため厚労省では熱中症死亡災害ゼロを目指し、9月30日まで「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施している。対策としては、WBGT値の把握や休憩場所の確保、服装の見直し、熱中症予防管理者の選任などが挙げられている。
職場での熱中症は、一般より高温多湿な環境や、作業者の体調に合わせて休憩をとりにくいこと、作業が長時間にわたることなどが要因になる。管理者だけでなく作業者含め、現場に携わる全員が正しい知識を身につけることが重要だろう。
(文=ヘルスプレス編集部)