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がん検診・早期治療、医師が口をつぐむ「寿命は延びない」という真実

構成=編集部
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――日本では、関連学会が過剰診断と過剰治療に対するガイドラインなどを発表していないのですか。

鳥集 たとえば、日本乳癌学会なども診療ガイドラインで過剰診断のことを課題として取り上げていますが、問題はそのことが国民にほとんど知らされていないことです。がん検診で「あなた、がんですよ」と診断されたら、多くの人は放置するのは嫌なので治療するでしょう。その治療で治るかもしれませんが、過剰治療の場合は命を縮めてしまう可能性もあるわけです。ですが、どの患者が過剰診断にあたるのか、現代の医学では区別ができません。実は、米国で発表された論文によると、検診で見つかった乳がんの約3分の1が過剰診断で、過去30年間に130万もの女性が無用な検査や治療を受けたと推計されています。しかし、日本の新聞やテレビなど大手マスコミは、ほとんど過剰診断の問題を取り上げません。週刊誌などが取り上げることはありますが、なぜ大手マスコミが取り上げないのか、そのカラクリも国民は知る必要があるでしょう。

善意がデメリットを見えなくさせる

――カラクリとは、たとえばマスコミの広告スポンサーに医療関連企業が含まれていることなどですか。

鳥集 それもあるでしょう。人間ドックや検査機器メーカーなど、検査・検診をビジネスにしている医療機関や企業にとって、過剰診断問題が明らかにされることは非常に都合の悪いことです。また、新聞社などは対がん協会などと一緒に、がん検診の普及キャンペーンに一役かってきました。しかし、それ以上にマスコミが勉強不足なことが問題だと思います。がん検診の記事を書くときに、国立がん研究センターが中心となって作成したガイドラインを読み込んでいる記者がいるでしょうか。乳がんの記事を書く記者は、日本乳癌学会のガイドラインを読んでいるでしょうか。さらにいえば、システマティック・レビューで世界的に評価の高い「コクラン・レビュー」で、がん検診がどのように評価されているかを調べて記事を書いていますか。

――そうした事前調査は医療専門記者もやっていないのでしょうか。

鳥集 やっている人は少ないでしょう。そうなると、記者にとって記事を書くうえで何が安心材料になるのかといえば、偉いお医者さんに話を聞くことなのです。偉いお医者さんが「がんは早期発見、早期治療が大切ですよ」とコメントしてくれたら、自分は無責任でいられるわけです。それに、「がんは早期発見、早期治療をしたほうがいいですよ」と書いたほうが、世の中にいいことを書いているような気がする。

 しかし、EBMで最も信頼性が低いとされているのは「個人の意見」です。偉いお医者さんの意見も個人の意見なので、EBMにおいては信頼性が低いのです。ですから、偉いお医者さんのコメントだけに頼るのではなく、記者たちも記事を書くときにはガイドラインや原著論文などにあたって、裏付けをとってから書くべきなのです。それに、毎年がん検診を受けている人や、がん治療を受けた人は、無駄な医療を受けたと思いたくないでしょう?

 お医者さんも、自分が検診をすすめたり、手術や投薬したりした患者さんが損をしていると思いたくないはずです。皆、いいことをしていると思いたいのです。そうした患者、医者、関係者、マスコミ、みんなの「善意」が、デメリットを見せないようにしているのです。でも、国立がん研究センターが運営する「がん情報サービス」や、日本対がん協会のホームページを見れば、過剰診断などがん検診のデメリットについても、ちゃんと書かれているんですよ。

 私が本書で伝えたかったことは、多くの人が「早期発見・早期治療」はいいことだと思い込まされているということと、医療者やマスコミががん検診のメリットだけでなくデメリットもちゃんと伝えないと、国民を誤解させて、不利益を被らせる危険性もあるということなのです。

――医師たちは、そうしたデメリットを認識しているのでしょうか。

鳥集 勉強不足の医師は知らないと思います。ただ、海外の動向などを勉強している医師たちは、デメリットについてもよくご存知ですよ。

――知っていても、あえて言わない医師がいるわけですね。商売としての検診にマイナスになるからですか。

鳥集 EBMに詳しいある医師が、関連の学会で乳がん検診の限界についてデータを示して発言したら、「乳がん検診の邪魔をする奴は許さん!」と言われたそうです。たった3~4年前の話です。確かに商売という側面もあるでしょうが、一番の問題は、皆が早期発見・早期治療が大切だと善意で思いたがっていることです。

がん検診に多額税金

――ところで、医師たち自身はがん検診を受けているのですか。

鳥集 受けている人のほうが多いと思いますが、「僕は受けていないですよ」とはっきり言う医師も結構います。ある大学病院の医師に取材したら「僕はインフルエンザワクチンも打たないし、がん検診もやりません」と話してくれました。でも、大学病院での立場を失うので、表向きは発言しないと言っていました。それに、インフルエンザワクチンやがん検診をやる必要がないと主張したところで、医療界は損をするだけです

――鳥集さんは、がん検診に年間1000億円近い公費がつぎ込まれているのは間違いないと指摘しています。

鳥集 1000人に1人の割合でしかがんによる死亡を回避できず、しかも命が延びる証拠もありません。それでも「受けたほうが安心」という人は、受ければいいと思います。ただし、その検診に公費を使うべきかどうかは別問題です。たとえば国は前立腺がん検診(PSA検診)を推奨していません。にもかかわらず、一部の自治体では、70歳以上の男性を対象に無料で検診を受けられるよう公費を出しています。高齢になって前立腺がんにかかっても、進行がゆっくりなことが多いので、直接死に至ることが少ないにもかかわらずです。

 あるがん検診の専門家から、こんな嘆きも聞いたことがあります。自治体の担当者は国のガイドラインを理解していて、PSA検診もやりたくないと思っているのだけれど、議員たちが「他の自治体では無料検診をやっているのに、なぜうちではやらないのか?」とねじ込んでくるんだそうです。選挙対策として、高齢者に優しいことをアピールをしているわけですね。そんな利己的な思惑で、我々の血税が浪費されているかと思うと、ほんとうに情けない気持ちになります。

 がんの早期発見・早期治療が本当に多くの人を幸せにしているのか。公費によるがん検診の実施は一度撤廃して、あらためて科学的評価に基づき見直すべきだと私は考えています。

――ありがとうございました。
(構成=編集部)

『がん検診を信じるな~「早期発見・早期治療」のウソ』 国、自治体、医師、がんになった有名人、そして多くのメディアが、こぞって「がん検診」を推奨し、がんの「早期発見・早期治療」を呼びかけている。しかし、がん検診を受ければ命が救われるという“常識”はまったくのデタラメだった―。昨年、世界五大医学雑誌のひとつ『BMJ』に、「がん検診を受けても寿命がのびる科学的根拠は一切ない」という論文が掲載された。それ以上に問題なのは、検診によって、命を奪わない病変を「がん」と過剰診断されてしまうため、無用な検査や治療による健康被害に遭う人が急増していることだ。国ぐるみの“医療洗脳”から脱するために、必読の一冊! amazon_associate_logo.jpg

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