コキュ(寝取られ男)
山尾志桜里衆議院議員の不倫疑惑が報じられた。事実とすれば、山尾議員の夫は「コキュ(cocu)」になる。「コキュ」とは、「寝取られ男」を意味するフランス語であり、フランスにはコキュ小説の系譜がある。
コキュが数多く登場する日本文学の傑作といえば、『源氏物語』だろう。主人公の光源氏は亡き母とそっくりの継母を慕い続け、父である帝から寝取ってしまう。その後も、超モテ男の源氏はアバンチュールを重ね、そのたびにコキュが生まれる。もっとも、継母を寝取ってから20年あまり後、源氏は継母の姪を正室として迎えるが、その妻を若い男に寝取られ、自分自身もコキュになる。まさに因果応報である。
江戸時代にも存在したコキュ
『源氏物語』以降も和歌、演劇、浮世絵などで取り上げられてきたコキュは、実際に少なからず存在したようだ。たとえば、江戸幕府の定めた「御定書百箇条」には「密通いたし候妻、死罪」とあり、「密通の男」(不倫相手)も死刑とされていて、不義密通は命がけだったが、それでも密通する男女はいた。
当然、コキュが生まれる。江戸時代、コキュは妻とその相手を殺しても「構い無し(罪を問わない)」とされていたが、みんながみんな簡単に間男を殺害できるわけではないだろう。まず、そんなことをすれば、妻を寝取られたという自分自身の恥を世間にさらすことになる。かといって、何もせずにいたら、妻の不倫に気づかないアホ亭主、あるいは知っていても何もできない臆病者と思われるかもしれない。そのうえ、間男を討ち果たそうとして、逆に返り討ちにあう可能性もないわけではない。
そんなこんなでコキュは苦悩するわけで、そこからさまざまな解決策が生まれた。たとえば、妻が弟子の若者と密通していることを知った浪人は、狐を切って「あいつが潜んでいたので討ち果たしたのだ」と言い放ったという。妻も若者も傷つけないように、すべてを狐に押しつけたわけである。
なかなか粋な解決策だが、一般的には人妻との密通が発覚すると、間男が夫に“お詫び”として「首代(謝罪金)」を支払う習わしがあったようだ。さらに、詫び証文を提出することも少なくなかった。人妻との不義密通を詫び、以後二度と関係しない旨を文書で誓ったのだ。したがって、妻の不義密通が発覚したからといって、常に切った張ったの大立ち回りになったわけではなく、多くはむしろ穏便にすませようとしたことがわかる。