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ヒアリ対策のアリ駆除剤は、逆効果?殺虫剤、使用時に吸引の危険も…呼吸障害やぜんそくの可能性

文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト
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ヒアリ対策のアリ駆除剤は、逆効果?殺虫剤、使用時に吸引の危険も…呼吸障害やぜんそくの可能性の画像1「Thinkstock」より

「人をも殺す」との情報が出されたことで、恐れられているヒアリ(火蟻)。私が日頃利用している千葉県内にある私鉄駅の掲示板には現在、ヒアリに関するポスターが貼られています。「ヒアリかな? と思っても、あわてずに!」「決して触らないでください!」「万一、刺された時は!」などと書かれ、その下にはヒアリの大きな写真が載っています。

 これは環境省が掲載しているもので、同様のポスターを見た方も多いでしょう。ヒアリが日本各地で発見され、その脅威がテレビニュースや新聞などで報道され、国民の警戒感が高まっているため、環境省はこうしたポスターを製作し、注意を呼び掛けているようです。しかし、それほどヒアリを恐れる必要はあるのでしょうか。

 ヒアリは、アカヒアリともいわれ、体長は2.5~6mmと小さく赤褐色で、腹部は暗い色をしています。裸地や草地などの明るい開けた場所の地中に巣をつくり、巣口に土を盛り上げることがあり、それはかなり大きなものになることもあります。

 ヒアリはアルカロイド系の毒を持つため、人間が刺されると強い痛みやかゆみを感じます。また、体質によってはジンマシンなどのアレルギー症状が出ることがあり、最悪の場合、アナフィラキシーショックを起こして死亡するケースもあるのです。

 アルカロイドとは、もともとは植物に含まれる、窒素を含むアルカリ性有機化合物のことで、強い生理作用を持っています。代表的なものとしては、コーヒーや紅茶などに含まれるカフェイン、タバコに含まれるニコチン、麻薬の一種のモルヒネやコカインなどが知られています。

 ヒアリは、もともとは南米に分布していました。ところが、交易によって全世界の熱帯地方に広がったのです。アジアではフィリピン以南に棲息していましたが、台湾や中国南部にも広がり、とうとう日本にも上陸してきたのです。

 日本でヒアリが最初に発見されたのは、今年5月です。兵庫県・尼崎市内で、中国の広東省・広州市から船で運ばれてきたコンテナ内で数百匹が見つかりました。その後、大阪や横浜などの港湾で発見が相次ぎ、岡山県や埼玉県などでも発見されており、さらに生息域が広がるのではないかと心配されています。

日本には定着できない可能性も

 しかし、ヒアリがこのまま日本に定着するかは不明です。なぜなら、冬を越せるかどうかがわかっていないからです。

 1988年に発行された『世界大百科事典』(平凡社)によると、「(ヒアリが)日本でも沖縄に侵入して一時的に繁殖した例があるが、冬季の低温に耐えられず永続的な土着は不可能と考えられる」とあります。そのため、九州や本州でヒアリが越冬して定着する可能性は低いと考えられるのです。

 もし越冬して定着したとしたら、それは地球温暖化によって九州や本州の気温がかなり高くなっていることが要因でしょう。

 ところで、ヒアリが各地で発見され、その危険性が報じられるにつれて、アリ駆除剤を買い求めている人が増えているようです。アリ駆除剤は、もともとはクロアリや羽アリなど日本に棲息するアリを対象としたものですが、ヒアリにも効果があるとされています。

 市販のアリ駆除剤は、直接アリに殺虫成分を噴射したり、ノズルを使ってアリの巣の中に噴射するタイプ、あるいは殺虫成分を含むエサをアリ自身に巣穴へ運ばせ、ほかのアリがそれを食べることによって全滅させるものなどがあります。

 噴射するタイプは、ピレスメイド系殺虫剤が成分です。しかし、直接噴射した場合、有効成分が拡散するので、どうしても人間が多少吸い込んでしまうという問題があります。

 人間がピレスロイド系殺虫剤を吸い込むと、副作用として悪心(気分が悪くなること)、嘔吐、頭痛、耳鳴り、強い眠気などを起こすことがあり、重症の場合、呼吸障害やふるえ、ぜんそくなどを起こすこともあります。そのため、化学物質に敏感な方は要注意です。

 また、殺虫成分を含むエサをアリに運ばせるタイプは、薬剤を人間が吸い込む心配はありませんが、従来から棲息するクロアリなどを駆除してしまい、ヒアリにとっての敵対勢力が減ってしまう恐れがあります。結果として、ヒアリの繁殖が容易になってしまう可能性があるのです。これは、噴射するタイプにも当てはまることです。

 ヒアリを自分で退治する必要はありません。ヒアリを発見したら、まずは自治体などに連絡するべきです。冒頭で紹介したポスターにも、「自分で駆除せずに、お近くの地方環境事務所か都道府県の環境部局へ通報を」と書かれています。アリ駆除剤を使うと、かえってヒアリの拡散を招くことになりかねません。くれぐれもご注意ください。
(文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト)

渡辺雄二/科学ジャーナリスト

渡辺雄二/科学ジャーナリスト

1954年9月生まれ。栃木県宇都宮市出身。千葉大学工学部合成化学科卒。消費生活問題紙の記者を経て、82年からフリーの科学ジャーナリストとなる。全国各地で講演も行っている

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