可愛らしい猫の動画や写真が話題になるなど、猫の勢いは衰えることを知らない。
その一方で、年々、飼い猫の数も増え、2015年には日本における飼い猫の数が初めて犬を超えたという。
もしこれが「ブーム」ならば、いつか終わりはくる。その時に犠牲になるのは猫たちだろう。そんなことがあってはならない。
「猫ブームの被害者が、猫であってはならない。猫のためになる、いい猫ブームをつくりたい」
そんな、人気コピーライター・梅田悟司氏の猫への思いが本になった。『捨て猫に拾われた男』(日本経済新聞出版社刊)だ。
本書の根底にあるのは、社会問題にもなっている「捨て猫問題と里親制度」の啓蒙。
その上で、梅田氏が猫と暮らし、猫から教えられたことを紹介した一冊である。
猫の生き様から、「生き方」を教わる
妻の一言から里親会に参加し、黒猫の「大吉」と出会った梅田氏。もともとは根っからの犬派だったが、大吉と暮らしていくうちに、すっかり猫に心酔。気付けば猫派に変わっていた。1匹の猫との出会いで、人生に対する考え方も大きく変わったのだ。そして、大吉の生き様から生き方のヒントも教わることになる。
○「着地よければすべてよし」
猫はビルの5階の高さから落ちたとしても、空中でくるりと身をよじらせて、上手に着地する。衝撃を最小限に抑え、その場からサッと逃げていく。というのは、よく聞く「猫あるある」だ。大吉も、たとえ寝ながらズリ落ちたとしても絶妙に身体をねじらせて、手や足から着地する。
人間界には「終わりよければすべてよし」という言葉があるが、以前の梅田氏は、この言葉にはネガティブな印象を持ち、結果よりもプロセスこそが重要であると考えていた。
しかし、大吉と暮らし始めてからは、きれいに終わらせることは、次に向けた体勢を整えることにつながるのだと考えるようになったという。「次」のために「いま」を確実に終わらせる重要性を大吉から気付かされたのだ。
○「やってもらう技術」
大吉は自分の身の回りのことを、同居人である梅田氏やその妻にやってもらわなければならない。とはいえ、気をつかうこともなく、大吉は快適に生きている。それもそのはずで、梅田氏が誰に頼まれるわけでもなく、大吉の身の回りのお世話を喜んでやっているからだ。
大吉は「やってもらう技術」を完璧に体得している。そして、梅田氏は大吉の世話に「心地のいい義務感」を感じている。これは「他者承認による自己肯定感」とも一致する。SNSでいえば、「いいね」という他者承認を受けることで、初めて自分の存在価値を感じるということだろう。
梅田氏は猫の里親になることで、圧倒的な他者承認と自己肯定感がかけ合わさった「心地のいい義務感」を得ることができているのだ。
人と人との関係の中で、「やって」とお願いしても、自分が意図したように何かをやってもらえることはほとんどない。そこで、ちゃんとやってもらえるようになるには、大吉の「やってもらう技術」を体得することが大事だ。
低姿勢に、できないフリをする。そして、相手に心地のいい義務感を持ってもらうように振る舞う。キーワードは「他者承認による自己肯定感」。忘れてはいけないのが、何かをやってもらった後に、大袈裟なほどの感謝の気持ちを照れることなく伝え切ること。それによって相手の心地のいい義務感が満たされるのだ。
ペットとの出会いは何かの巡り合わせを感じるもの。本書を手に取ったことが、その出会いのきっかけとなるかもしれない一冊だ。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。