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“自宅”に手指消毒液、本当に必要?ベンザルコニウム塩化物とアルコールの基礎知識

文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト
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「Getty images」より

新型コロナウイルスの家庭内感染を防ぐため、家に手指消毒液を常備している」という人も少なくないでしょう。また、ドラッグストアの入り口近くには、各メーカーのさまざまな手指消毒液が陳列されているので、その前を通ると目が行って、「つい買ってしまった」という人もいるでしょう。しかし、本当にそれらの製品は必要なのでしょうか?

 新型コロナ対策用として売られている手指消毒液は、2つのタイプに大別することができます。ひとつは、ベンザルコニウム塩化物系で、もうひとつは、アルコール(エタノール)系です。

ベンザルコニウム塩化物

 ベンザルコニウム塩化物は、プラスに帯電する合成界面活性剤(これを陽イオン系界面活性剤という)の一種で、細菌やカビ、酵母などに対して殺菌効果があります。逆性石けんともいわれ、病院などで、手指や粘膜などの消毒、さらに機器の消毒などに使われているほか、目薬に防腐剤としても配合されています。

 この成分がどうして新型コロナ対策の手指消毒液に使われているかというと、厚生労働省などが、ベンザルコニウム塩化物が新型コロナウイルスに有効であると認めているからです。

 同省のホームページには、「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)」という項目があり、そこには、「テーブル、ドアノブなどには、市販の家庭用洗剤の主成分である『界面活性剤』も一部有効です。界面活性剤は、ウイルスの『膜』を壊すことで無毒化するものです。9種類の界面活性剤が新型コロナウイルスに有効であることが確認されています(NITEの検証による)」とあります。そして、そのひとつが塩化ベンザルコニウム(ベンザルコニウム塩化物と同じ)なのです。

 ここで「NITE」とは、経済産業省所管の独立行政法人である製品評価技術基盤機構のことです。同機構は、「新型コロナウイルスに対する代替消毒方法の有効性評価(最終報告)」という冊子を2020年6月に発行していて、そのなかで次のように記しています。

「塩化ベンザルコニウムについては、国立感染症研究所での検証試験において、0.05%(2分)において99.999%以上の感染価減少率であった。北里大学での検証試験において0.05%(1分)で不活化効果が認められた」。つまり、ベンザルコニウム塩化物の0.05%溶液によって、新型コロナウイルスの感染力が極端に低下し、また不活化、すなわちウイルスとしての活動が抑えられたということです。

 そのため、ベンザルコニウム塩化物の濃度を0.05%に設定した手指消毒液が、各種発売されているのです。しかし、これらの手指消毒液を家庭内に置いて、手指を消毒する必要性は実際にはないのです。

 前出の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」では、「手や指などのウイルス対策」として、「手や指についたウイルスの対策は、洗い流すことが最も重要です。手や指に付着しているウイルスの数は、流水による15秒の手洗いだけで1/100に、石けんやハンドソープで10秒もみ洗いし、流水で15秒すすぐと1万分の1に減らせます」とあります。

 ウイルスは、生物と無生物の中間の存在です。すなわち、人間などの細胞の中に入って増殖する場合は生物といえますが、その外では増殖はできず、無生物に当たります。つまり、ごくごく小さな埃のようなものなのです。

 ですから、手指に付着したウイルスは、水道の流水や石けんで洗うことによって、ほぼ除去できるのです。したがって、わざわざ手指消毒液で手指を消毒する必要はないのです。

 そもそもベンザルコニウム塩化物は、「テーブル、ドアノブなど」を消毒するのに有効とされているものです。それがいつの間にか、手指の消毒に有効ということにすり替えられ、それを成分とした手指消毒液が売られているのです。

アルコール系の手指消毒液

 一方、アルコール系の手指消毒液はどうでしょうか。「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」では、「手洗いがすぐにできない状況では、アルコール消毒液も有効です。アルコールは、ウイルスの『膜』を壊すことで無毒化するものです」と記され、濃度が70%以上95%以下のエタノールを用いてよくすりこむことが有効とされています。

 しかし、家庭内には必ず水道があるので、「手洗いがすぐにできない状況」には当たりません。したがって、この製品も家庭では必要ありません。

「新型コロナの感染はなんとしても防ぎたい」と、ほとんどの人が思っているでしょう。そんな心理に付け込むように、感染予防を示唆する製品が次々に発売されています。しかし、その多くは実際には必要ないものです。巧みな宣伝・広告に惑わされて、無駄な買いものをしないようにくれぐれもご注意ください。

(文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト)

渡辺雄二/科学ジャーナリスト

渡辺雄二/科学ジャーナリスト

1954年9月生まれ。栃木県宇都宮市出身。千葉大学工学部合成化学科卒。消費生活問題紙の記者を経て、82年からフリーの科学ジャーナリストとなる。全国各地で講演も行っている

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