新型コロナウイルスの感染者が増え続けていますが、今の季節、さらに風邪やインフルエンザにかかる心配もあります。咳や発熱、のどの痛みなどの症状が現れた場合、とりあえず市販の風邪薬を飲もうという人も多いと思います。
しかし、安易な服用はやめたほうがよいでしょう。風邪薬に風邪を治す効果はありませんし、かえって風邪の治りを遅らせてしまうことになりかねないからです。
市販の風邪薬の効能・効果はいずれも、「風邪の諸症状の緩和」です。ある風邪薬の説明書には、「効能・効果:のどの痛み、発熱、せき、鼻水、鼻づまり、たん、関節の痛み、筋肉の痛み、くしゃみ、悪寒、頭痛」とあります。ほかの風邪薬もだいたい同じです。
つまり、発熱によって上がった体温を下げたり、頭痛を抑えたり、咳やのどの荒れなどを抑えるというもので、すべて対症療法的効果なのです。裏を返せば、風邪の原因となっているウイルスを退治して、風邪を治すという効果はないということです。
風邪の原因の約9割は、ライノウイルスやコロナウイルスなどのウイルスです。これらのウイルスが、鼻やのどなどの上気道の細胞に入り込んで増殖し、炎症を起こした状態が風邪です。
新型コロナウイルスの場合は、肺まで達して、その細胞の中で増殖し、炎症を起こします。それが悪化すると、肺炎を起こして呼吸困難に陥り、最悪の場合、死に至るのです。
ちなみに、新型コロナウイルスは、コウモリなどに存在していたコロナウイルスの一種が変異し、人間に感染するようになり、肺炎やその他の症状を起こしやすくなったと考えられています。
しかし、市販の風邪薬に含まれる各成分は、風邪の原因となっているウイルスを攻撃して、消滅させる作用はありません。ですから、風邪薬を飲んでも、風邪は治らないのです。
それどころか、かえって風邪の治りを遅らせてしまうことになりかねません。というのも、体の免疫力を弱めてしまう可能性が高いからです。
通常の風邪にしても新型コロナにしても、その原因ウイルスを退治することができるのは、体に備わっている免疫でしかありません。侵入してきたウイルスを免疫システムが察知し、機能を開始してウイルスを攻撃し、消滅させるのです。そして、この免疫は体温が高いほうが活発に働くのです。風邪をひいて発熱するのは、体温を高めて免疫力を高めるためでもあります。
ところが、解熱鎮痛剤(イブプロフェンやアセトアミノフェンなど)を含む風邪薬を飲んで、無理に体温を下げてしまうと、免疫の機能が低下し、ウイルスを攻撃する力が弱まってしまうのです。
また、風邪のウイルスは低温のほうが活動が活発になるので、それで増殖しやすくなり、症状を悪化させてしまう可能性もあります。つまり、風邪薬を飲むと、かえって風邪の治りが遅くなってしまいかねないのです。
スティーブンス・ジョンソン症候群
さらに、風邪薬によって副作用が現れる心配もあります。発疹・発赤、かゆみ、青あざなどのほか、吐き気・嘔吐、食欲不振、胃部不快感、めまい、動悸、息切れ、排尿困難、目のかすみ、耳なりなどの症状が現れることがあります。
体質によってはアレルギーの一種のアナフィラキシーショックを起こすこともあります。これは、服用後すぐに皮膚のかゆみ、蕁麻疹、動悸、息苦しさなどが現れるというものです。
また、ごくまれにですが、スティーブンス・ジョンソン症候群という重い副作用が現れることがあります。体の免疫が風邪薬の成分に過剰に反応するために発症するもので、高熱がでて、目の充血、唇のただれ、のどの痛み、皮膚の広範囲の発疹・発赤、全身倦怠感などの症状が持続したり、それらの症状が急激に悪化するというものです。
したがって、市販の風邪薬を安易に飲むことはやめたほうがよいのです。風邪を治すためには、体を温かく保ち、栄養や休養を十分にとって免疫力を高めることが何より重要です。
私の場合、風邪気味になったときには、これらの対策をしたうえで、早めに漢方薬の「葛根湯(粉末状)」を飲むようにしています。「葛根湯」はカッコン、マオウ、ケイヒ、タイソウ、カンゾウなど7つの生薬成分を含んでいて、古くから風邪に効果があるとされています。これら7成分のうちのケイヒ、タイソウ、シャクヤク、カンゾウ、ショウキョウの5成分は、免疫を活性化させる「桂枝湯」と同じものであり、免疫力を高めることも期待できます。
なお、「葛根湯」を服用する際には、お湯に溶かして飲むと、体が温まってより効果を得られると考えられます。ただし、漢方薬でも、人によっては副作用が現れることがあるので、その点は注意してください。
(文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト)