多くの市販薬で使われ続けてきた麻薬性成分
あまり信じたくない事実かもしれませんが、市販薬の知識がゼロに等しい薬剤師がいます。そんな薬剤師と一緒に働いていた時、こんなやりとりが行われました。
「さっき患者さんから相談を受けて、市販の風邪薬見てたんだけど、めっちゃ『リンコデ』(コデインリン酸塩の略称)入ってるじゃん! 大丈夫なの?」
「市販の場合は、使っていい薬リストの中から選んで使うからねえ」
「医療用ではほとんど処方ないよね?」
「そうなんだよね」
「だって危なくない? こんな簡単に飲む薬じゃないじゃん!」
「まあね」
「普通さ、咳と言ったら『メジコン』(デキストロメトルファン臭化水素酸塩の商品名)使うじゃん。いきなり市販でリンコデ使って、治らないからといって病院行って『メジコン』が処方されたら効かないじゃん!」
「市販薬は市販のルールでやってるからねぇ」
かなりその薬剤師に食い下がられたのですが、言っていることはいたって筋は通っていました。だから、そのことについて言い返せなかったのです。
ここで薬の名前が出てきたので解説しておきます。「リンコデ」こと「コデインリン酸塩」は、「麻薬性」の咳止めです。そうなんです。あの「麻薬」です。ケシから取れる液には、このコデイン以外にも「モルヒネ」や「パパベリン」「ノスカピン」といった成分が含まれています。このケシのしぼり液には鎮痛、鎮静、咳止めといった効果があるとわかっています。現代科学の力でそれらが化学合成できるようになり、それぞれの成分の薬効が明らかになってきました。そのうちの「コデイン」は咳止め効果が高く、鎮痛・鎮静効果が弱くなっているため咳止めとして多くの市販薬に含まれています。リン酸塩にすることで、錠剤として安定的に扱えるようになっています。
「メジコン」こと「デキストロメトルファン臭化水素酸塩」は、コデインの副作用を抑えるために開発された「非麻薬性」の咳止めです。咳を止める以外の鎮痛・鎮静作用などは、不要な効果となります。それ以外にも呼吸抑制や便秘といった副作用があります。
デキストロメトルファンは、そうした副作用が出ないように改良された成分ですから、処方する医師とすればこちらのほうが使いやすいわけです。処方される咳止めは「メジコン」が主流となり、「リンコデ」を使うのは、症状がひどい時に限られています。そうした実態を知っている前出の薬剤師は、市販薬として「リンコデ」が大量に出回っていることに疑問を感じていたのです。