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西島基弘「食品の安全、その本当と嘘」

英国、「ひじき」を食べないよう勧告…ヒ素含有、肉・魚介・野菜等にも含有

文=西島基弘/実践女子大学名誉教授

食品中のヒ素化合物

 ヒ素は無機ヒ素化合物や有機ヒ素化合物など、さまざまな形態で存在します。また、陸の植物と比較して海藻や魚介類に多いこともわかっています。魚介類には主にアルセノベタイン、海藻類には主にアルセノシュガー等の有機ヒ素の形態で存在しています。

 ヒ素は穀類、野菜、魚介類、肉類等を食べると、微量ですが一緒に摂取することになります。毒性が強い無機ヒ素は、一日の摂取量が0.5mgを超えると肝臓でメチル化して排泄する能力を超えてしまうため、いろいろな臓器に蓄積されるといわれています。ヒ素の目安量として、JECFA(FAO/WHO合同食品添加物会議)は無機ヒ素については15μg/kg体重/週と設定しています。これは体重50kgの人であれば1週間に750μg未満の摂取であれば、一生涯健康影響が現れないということになります。

 食品安全委員会の評価では、無機ヒ素としては75パーセンタイル(100人のうちで少ないほうから75番目に多く摂取している人)でも0.1μg/g程度となっています。また、環境省の陰膳調査(平成18~22年度実施)では、一日で無機ヒ素摂取量は 18.6±19.6 μgであり、95パーセンタイル値 45.0μg/g程度となっています。いずれにしてもJECFAの規格から見ても問題ない摂取量です。

 農作物のヒ素については野菜や果物に比較して米に多く含まれています。米に含まれる無機ヒ素は、玄米の外側についている糠(ぬか)の部分に多く含まれています。そのため、玄米を白米に搗精(とうせい)すると大半が除去されます。玄米を食べるときには糠を良く除去することで無機ヒ素の濃度が低くなることがわかっています。しかし、糠の部分には鉄分や食物繊維などの栄養成分が豊富に含まれ、白米と比べて栄養面で優れています。食品安全委員会の評価でも「玄米や糠漬けを食べても、食品を通じてヒ素を摂取することによる健康への問題はない」としています。

英国食品規格庁ではひじきを食べないようにという勧告

 英国食品規格庁は、ヒ素の濃度を測定した結果、すべての海藻類から検出されたが、ひじきは特に無機ヒ素が多く含まれているため、あえて食べないようにという勧告を出しました。

 日本では昔からひじきは体に良いといわれており、ひじきの料理を好む人は大勢います。ひじきは他の海藻類と比較して無機ヒ素の含有量が高いことが知られています。

 しかし、一般的には食べる量が少ないうえに、ひじきを調理するときには、乾燥ひじきは水戻しをしたり茹でこぼしをしたりします。無機ヒ素は水戻しを30分程度すると約半分が除去されます。さらに茹でこぼしをすると8~9割程度減らすことができます。このように調理しても鉄分やカルシウム、食物繊維などは7割程度残るということから、今までの調理方法で安心して食べて良いのではないでしょうか。
(文=西島基弘/実践女子大学名誉教授)

西島基弘/実践女子大学名誉教授

西島基弘/実践女子大学名誉教授

実践女子大学名誉教授。薬学博士。1963年東京薬科大学卒業後、東京都立衛生研究所(現:東京都健康・安全研究センター)に入所。38年間、「食の安全」の最前線で調査・研究を行う。同生活科学部長を経て、実践女子大学教授に。日本食品衛生学会会長、日本食品化学学会会長、厚生労働省薬事・食品衛生審議会添加物部会委員などの公職を歴任。食品添加物や残留農業など、食品における化学物質研究の第一人者として活躍している

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