日本の医療費が増加しているのは、高齢化のためだけではない
日本の医療費が年々増加しているのは、ご存じの方も多いでしょう。高齢者が増えているため、といわれることが多いのですが、理由はそればかりではありません。例えば、平成27年の医療費は、前の年に比べて3.8%の増加となっています。そのうち、1.2%分は高齢化による影響ですが、残りはそれ以外が原因となっています。明確には特定できませんが、「医療の高度化」が影響しているものとみられています。他の年についても概ねこの傾向は変わりません。それはやがて、健康保険料の値上げなどにつながっていきます(厚生労働省「中央社会保険医療協議会総会(第336回)」資料7参照)。
医療技術の進歩により、今まで治らなかった病気が治るようになりました。そのことはありがたいことですが、こと医療費に関しては、かなりの負担要因となっています。新しい医薬品、治療法は高額のものが多く、それに伴い医療費が拡大しています。
さらに、保険診療の対象になると、患者の負担が一定額までで抑えられるため、医師も患者もためらいなく高額の治療法を利用しがちです。その結果、健康保険組合や協会けんぽ、国民健康保険などの保険制度の負担は増えるばかりです。
日本ではタブーとされている議論
そろそろ、「費用が高い治療は保険診療の対象から外す」という選択肢を考えていかなければならないようです。それは「貧富の差が命の差につながる」との懸念につながります。確かに、金で命を買うような状態になってはいけませんが、かといって数千万円もの医療費が数万円程度で利用できる状況を放置しておいてよいものか、検討は必要でしょう。ヨーロッパ諸国でも、一部の高額な医療費を公的医療保険の対象から外す制度改正がなされています。もちろん、批判があるのは確かです。
基本的な医療については、公的な医療保険で誰もが少ない負担で治療を受けられる。しかし、特に高額な治療については、自己の負担と選択に委ねる。高額な治療が必要になっても困らないようにしたい人は、民間の医療保険などを利用して自分で備える。そんな区分けも検討していかなければならない時期に来ているようです。
日本人のノーベル賞受賞で、新しいがん治療に注目が集まるようになりました。本庶教授らの研究は、がん治療法の新しい道を拓きました。と同時に、医療保険制度の在り方についても、新たな問題を突き付けているようです。
(文=村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー)