10代を中心に人気のSNS、TikTokで「寄り目」の動画が人気となり、その合計再生回数は、2000万回を超えている。これに伴い、故意に寄り目をする行為により「斜視」になったケースがあると、注意喚起がされている。遊びのつもりで寄り目をしているだけで、本当に斜視になる可能性があるのか。名古屋市昭和区円上町の田辺眼科クリニック院長、田辺直樹医師に聞いた。
「私たちの目は物を見るとき、両方の目が同じ方向を向いていますが、斜視のある人では両眼が同じ方向を向くことができず、片方の目が目標とまったく違う方向を向いてしまいます」
斜視による弊害は、先天性などで子供の頃から症状がある場合と、なんらかの理由で後天的に斜視になった場合で症状は大きく異なる。
「生まれつきの先天性の斜視の場合は、脳が片方の像を抑制するので2つに見えることはなく、生活に支障がないケースが多くあります。しかし、後天的に斜視になった場合は、両眼が違う方向を向いているので2つの像が見える状態になり、頭痛や吐き気などの非常に不快な症状が起きることもあります」
寄り目にする遊びをすることで、実際に斜視になることはあるのだろうか?
「寄り目をしたからといって、すべての人が斜視になるわけではありませんが、斜視になる可能性があると思います。寄り目を長い時間行ったりすることで、目を動かす筋肉に異常が生じると目の位置がずれ、斜視になることは考えられます。寄り目に限らず、最近では眼科医の間でも問題視しているのがスマートフォンを長時間見ることにより内斜視が起こるケースです」
長時間のスマートフォン使用で斜視に
近年、スマートフォンは暮らしに欠かせないツールのひとつであり、特に中高生では、長時間の使用により、心身の不調を生じるスマホ依存が問題となっているが、目に関してもその影響は大きいという。
「私も、これまでにスマホを長時間見続けて内斜視になった患者さんを診察した経験があります。目は物を見るとき、距離が近ければ近いほど、意識せずとも寄り目になります。スマホを長時間見ていると寄り目の状態で過ごすことになり、目が内側に寄ってしまう内斜視になるリスクが高いといえます」
斜視になった場合には、物が二重に見えるなどの症状が起きることが多いため、そういった違和感を覚えた際は放置せず、眼科を受診してほしい。
「スマホの使用を完全にやめることで元に戻るケースもありますが、なかには元に戻らず、手術が必要となる場合もあります。斜視の状態が続くことで体調不良を起こす可能性もありますので早めに受診してほしいと思います」
斜視の予防
スマホの長時間利用が斜視を引き起こすリスクとなることは事実であるが、現代社会ではスマホの使用をやめることは難しい。斜視を予防するには、一定のルールを守り使用することが必要だという。
「スマホの画面を近くで見ないことが大切です。30cmは離して見ることを守ってください。それから長時間の使用を避けることです。1日の使用時間は4時間以内が望ましいといわれます。それも、連続して4時間の使用することは避け、30分使用したら目を休ませることが大事です」
子供の健康を守るのも親の役目のひとつであり、スマホの使用に関しては、各家庭ごとに子供との話し合いの時間を持ち、メリット、デメリットを説明した上で使用のルールを決めることが必要だろう。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)