タレントの薬丸裕英が9月20日に自身のブログで、左目に痛みがあり受診した結果、「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」と診断され治療したことを報告した。痛みを感じた当初は、「急性副鼻腔炎」と自己判断して市販薬を購入しようと考えたが、念のため知り合いの医師にメールで相談したところ、「CT(コンピュータ断層撮影)と血液検査」を勧められたために受診したことも明かしている。
実は、目に帯状疱疹ができた場合には失明の危険もある。医師に相談したことで適切な治療を受け、事なきを得た薬丸はラッキーだったといえる。帯状疱疹は初期症状の段階で治療を行うことが早い回復につながるため、ぜひその病態について知っておいていただきたい。
帯状疱疹の病態、治療、予防について、予防医療研究協会理事長で麹町皮ふ科・形成外科クリニック院長の苅部淳医師に聞いた。
皮膚に赤くポツポツができたら湿疹だと思う人が多いだろう、しかし、帯状疱疹には湿疹やかぶれとは異なる特有の症状がある。
「帯状に症状が広がることに由来して、帯状疱疹という病名がつけられました。チクチクする感じがしたり、患部に痛みや重い感じがあり、発疹が右側だけ、左側だけと身体の片側だけに出ている場合、帯状疱疹を疑ってください。身体の左右どちらか一方に、神経に沿って片方の胸から背中にかけてもっとも多くみられ、顔面や眼の周り発症しやすいのです」(苅部医師)
コロナ禍で帯状疱疹が増加傾向にあるともいわれるが、実は以前から帯状疱疹は増加傾向にある。1997~2018年の21年間に「宮崎スタディ」と呼ばれる世界最大規模の帯状疱疹の疫学調査が行われ、その結果、過去10年で帯状疱疹の罹患率は10%も増加したことが判明している。特に50~70代に特化して帯状疱疹の罹患率が高いことが明らかになっている。
「帯状疱疹は、子供の頃に感染した水ぼうそうによって、身体の中に潜伏していたヘルペスウイルスの一種である水痘帯状疱疹ウイルスによって起こります。水ぼうそうにかかったことのある人なら、誰でも帯状疱疹になる可能性があります」
新型コロナウイルスのワクチン接種後に帯状疱疹が出たという人も少なくないが、その因果関係ははっきりしない。
「高齢になると免疫力が低下するため、発症が増加しますが、過労やストレスが原因となることもあります。若い人に発症することも珍しくありません。コロナ禍でストレスを抱える人が多いことも、帯状疱疹になる人が増えている一因なのかもしれません」
帯状疱疹の治療
ウイルスが原因の帯状疱疹は、抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビル)の服用が必須で、早めの治療が症状を悪化させないカギとなる。また、薬の服用をできるだけ早期に開始することが重要であり、重症の場合、入院して抗ウイルス薬の点滴治療が必要となることもある。また、帯状疱疹が治った後も、ピリピリとした痛みや違和感が残ることがある。
「再発を繰り返す人は、帯状疱疹後神経痛(PHN)という、痛みが長い期間残ってしまう後遺症があります。帯状疱疹による皮膚の炎症が改善した後も帯状疱疹神経痛がある場合は、治療によって痛みを軽減することができますので、痛みを我慢せず医師に相談することをお勧めします」
宮崎スタディでも明らかにように、50代以上の帯状疱疹の罹患率が増加しており、帯状疱疹神経痛に年単位で悩まされる患者も多い。こういった現状を受けて2016年より、希望すれば帯状疱疹ワクチンの接種が受けられるようになった。
「帯状疱疹の予防のためのワクチン接種は、50歳以上の方が対象です。水ぼうそうにかかったことがある人は免疫を獲得していますが、年齢とともに弱まってしまうため、あらためてワクチン接種を行い、免疫を強化することで帯状疱疹を予防できます」
帯状疱疹ワクチンは自費での接種となるが、自治体によっては費用の一部を助成しているところもあり、接種前に居住地の相談窓口に問い合わせてほしい。
ところで、帯状疱疹は伝染するのだろうか。
「過去に水ぼうそうにかかったことがある人同士では、帯状疱疹がうつることはありません。しかし、まだ水ぼうそうにかかったことがない乳幼児などに接触すると感染させてしまう可能性があるため、注意が必要です」
帯状疱疹は、広い世代で多くの人が罹患する可能性がある。普段から疲れをためず、免疫力の低下を防ぎ、帯状疱疹を疑う症状があれば早めに皮膚科などを受診していただきたい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)