俳優・ミュージシャンのピエール瀧容疑者が、コカイン使用容疑で逮捕された。その独特な音楽性や豊かな表現力で幅広い世代に人気があった瀧容疑者。
NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺』に出演中で、主人公・金栗四三(中村勘九郎)の足袋をつくるという重要な役柄を演じているため、単純に瀧容疑者の出演シーンをなくす、というわけにはいかない。そのためNHKは14日、16日に再放送される第10話については、瀧容疑者の出演シーンをカットして放送し、今後の収録については代役を立てると発表した。
また、2013年の大ヒット映画『アナと雪の女王』(ディズニー)ではオラフの吹き替えを務め、子供たちの間でも人気が高かった。逮捕を受けて13日には、ディズニーがオラフの声優を交代すると発表した。子供たちの夢を裏切った罪は深い。
自身の人気や、ファンからの信頼を自覚していたはずの瀧容疑者が、そのすべてを失う可能性があるにもかかわらず使用していたコカイン。なぜ、それほどまでに虜になってしまったのか。
コカインは南米に生育する「コカ」という木の葉から抽出される物質で、白色粉末である。コカインの依存性は非常に高く、海外でも「“One hit and you are hooked”drug」と呼ばれる。すなわち、「1回やっただけで、もののみごとに虜になるクスリ」で、その危険性は広く認識されている。コカインは医療用薬品として局所手術用麻酔に使用されてきた歴史がある。
作用発現、持続時間が短い
コカインは、覚醒剤や大麻とその作用発現と持続時間の点で大きく異なる。覚醒剤は静脈注射によって摂取した場合、直後に効果が現れ、作用時間は数時間である。大麻は吸煙による摂取の場合、効果は数分後に現れ、作用時間は3時間から5時間である。これに対し、コカインを使用する際は、通常はスニッフィングと呼ばれる鼻からの吸入であり、じわじわと効果が現れ、作用時間は20~30分といわれる。そのため、コカイン中毒者は30分ごとに30回ほど使用することもあるという。
一部ではコカインは“セレブのドラック”と呼ばれる。それは、コカが南米産のため国内での製造が困難で価格が高いこと、そして1日に何度も吸入するため金銭的負担が大きいという事情がある。
また、鼻からのコカイン吸入により鼻粘膜に炎症が起き、鼻が詰まった状態になるコカイン中毒者も多いという。
致死量にも個人差
致死量は1.2グラムとされているが、実際には個人差が大きく、100ミリグラムから300ミリグラムで死亡した例もある。初めての使用で急激なショック症状を起こし、血圧低下、呼吸困難を招き死亡することもあり、致死量は基準にはならない。
しかも、コカインの依存性は大麻や覚醒剤よりはるかに高いともいわれる。そのため、瀧容疑者がコカインを常用していたのであれば、日常生活になんら支障がなかったのかと疑問に思う。
薬物依存症の治療に詳しい、ブレインケアクリニックの院長で精神科医の今野裕之医師に聞いたところ、「個人差があると思いますが、使用頻度や量が少なければ、“日常生活に支障が出ない使い方”も不可能ではないでしょう」との見解だった。だが、依存性が高いコカインを使用すると、そこからの更生は簡単ではなく、医療機関での専門治療が必要だという。
瀧容疑者については、多くの関係者が「唯一無二の才能の持ち主」と絶賛し、才能豊かな人物であることには間違いない。この逮捕をきっかけに治療、更生することを期待したい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)