歌舞伎俳優の市川海老蔵が自身のSNSで、3日間のプチ断食を行って3㎏減量できたと明かした。しかし、そのプチ断食の内容が危険ではないかとの声が上がっている。その理由は、6月6日のブログに「今日の目標は11リットルです!!!かなり大変ですが飲みきりたい」とあるように、1日に11リットルもの水を飲むというものだ。
「85時間水だけ生活」と命名するこの断食について海老蔵は、専門家に相談していると記しているが、医学的エビデンスがあるのだろうか。くぼたクリニック松戸五香院長の窪田徹矢医師に聞いた。
「水を1日に11リットルも飲むというのは明らかに過量ですし、非常に危険です」
窪田医師は、医学的に考えて1日11リットルもの水を飲むことは大きな健康被害をもたらすリスクがあると話す。
「水分を多量に摂取することによって尿の処理能力が低下し、『低ナトリウム血症』が起きます。低ナトリウム血症は、めまいや頭痛、むくみ、下痢などの症状を引き起こします。重症になると意識障害や呼吸困難になり、命を脅かすこともあります」
1日に水11リットルを飲むには、12時間起きているとしてもおおよそ1時間に1リットルを飲むことになる。その量がいかに多いか、おわかりいただけるだろう。
医学的コンセンサスの欠如
「大量に水を飲むと腎臓のろ過機能に大きな負担をかけることになりますし、海老蔵さんは専門家の指示で行っていると言っているようですが、少なくとも医師が11リットルの水の摂取を勧めることはあり得ませんし、医学的コンセンサスがなさすぎると思います」
窪田医師は、海老蔵の発信を見たファンが、同じように多量の水を飲む断食法を真似する可能性を危惧する。
「医学的には、1日に4リットル以上の水を飲むことは多量であり、水中毒になるリスクが高くなります。また、もともと腎臓の機能が低下している方が4リットルを超える水を飲むと、腎機能をさらに低下させ、肺に水が溜まるなどの弊害が起きる可能性がありますので、安易に真似をしないようにしてほしいですね」
水の適正な摂取量は?
「一般的に推奨される水分摂取量は、1日に2.5リットル程度です。人間の体は、60%が水分でできています。特に運動などをしない場合でも、1日の生活の活動で尿・便で1.6リットル、汗や呼吸で0.9リットル、合計2.5リットルの水分が排出されていきます。健康を維持するためには、出て行った水を補う必要がありますので、2.5リットルの水を飲むことが適正だといえます」
また、水を多く飲んでデトックス(老廃物の排出)ができるという考え方も、医学的にはエビデンスがないと言う。
「何に関してデトックスというのか、不明です。水を多く飲めば、単に飲んだ水が排出されるということでデトックスにはなりません。海老蔵さんが3㎏痩せたというのは、断食によってカロリー摂取がゼロであれば、カロリー源として肝臓に蓄えられている糖質が分解、消費され、さらに脂肪や筋肉が消費されていきますので、その結果、体重が減ったのだと考えられます。水分を多く摂ったために体重が減ったわけではありません。海老蔵さんのプチ断食には、医学的エビデンスはありません」
その後、海老蔵は長女の麗禾さん(10)が、父の影響からか水だけ生活を行っていると明かしている。16歳未満の断食はリスクが大きいとして、ダイエットの専門家も疑問視する声が多い。海老蔵は断食のメリットだけではなく、リスクも把握したうえで情報発信してもらいたい。
水中毒による死亡例は、過去に国内外ともに報告されており、大量の水を飲むことは命を落としかねないということを多くの人に認識していただきたい。また、そういった危険をはらんだ行為を影響力がある人が発信することは慎むべきだろう。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)