女優の秋野暢子が7月4日、食道がんであることを明らかにし、治療に専念するため芸能活動を3カ月ほど休止すると所属事務所が発表した。
秋野といえば、健康志向が強く、健康管理には人一倍の気を遣っていた。ブログを見ると、秋野自身も驚きを隠せない様子が伝わってくる。
「今まで健康に留意し、毎年定期検診も受けて、食べ物に気をつけて、運動も定期的に続け、睡眠も大切にしてきて、また、それらを皆様に発信してきた私が………まさか、ガンになるとは考えもしなかったんです」
近年、食道がんは増加傾向にあるが、一般に食道がんの症状や病態について広く知られてはいない。食道がんについて大宮エヴァグリーンクリニック、池袋消化器内科・泌尿器科クリニック理事長の伊勢呂哲也医師に話を聞いた。
「日本では年間に約2万5000人の方が食道がんと診断され、約1万1000人の患者さんが亡くなっているという統計もあります。食道がんは男性の罹患率が高いという特徴があり、男性5:女性1という比率です。日本の食生活の欧米化や肥満の増加によって食道がんの罹患リスクは高くなっているといえます」
初期症状が乏しい食道がん
「食道がんは、食道のどの位置にがんが発生するかによって頸部食道がん、胸部食道がん、腹部食道がんの3つに分けられます。発生部位にかかわらず、初期の場合は自覚症状が乏しい傾向にあります」
頸部食道がんは、食道の入り口から約3センチの範囲に発生し、食道がんの約5%の頻度で発生する、比較的まれなタイプである。胸部食道がんは、頸部食道の下から横隔膜までの約20センチの範囲に発生し、食道がんの約50%を占める。腹部食道がんは、横隔膜から胃の入り口までの約2センチの範囲に発生する。
「食道がんの早期に胸の違和感が出る場合や、飲食の際に喉にしみる、つかえるといった症状を感じることもあります。小さな症状でも、これまでに感じたことがない症状があった場合には、要注意です」
食道がんが進行すると、さまざまな症状が出始めるが、それらの症状の原因が食道がんとは気づかず放置してしまい、さらに進行するケースもある。
「代表的な症状は、胸・背中の違和感・痛み、飲み込みづらさ、体重減少、声のかすれなどがあります。進行食道がんになると、周囲の臓器に広がり、気管や気管支などに及び、その刺激によって咳が出ることがあります。また、声帯を動かす反回神経という神経のまわりにリンパ節転移が起こることが多く、その転移によって声のかすれが出ることもあります」
食道がんの治療と予防
食道がんの治療は、進行度によって適した治療を選択する。
「食道がんの治療は、手術で切除、状態によって放射線治療や抗がん剤治療を合わせて行います。早期では、内視鏡手術でがん細胞だけを切除し食道を残すことができるため、術後の生活も変わらず送ることができます。しかし、食道がんが進行し腫瘍が大きくなると、周囲の臓器に広がり、手術が難しくなることがあります」
早期発見が難しい食道がんは、定期的な検診と予防が重要である。予防に関しては、喫煙、多量飲酒が、食道がんのリスクであるため、そういった習慣がある人は見直すべきだろう。
「アルコールを摂取すると、体内で代謝されアセトアルデヒドが発生します。アセトアルデヒドは発がん性物質の一つであり、食道粘膜の扁平上皮に蓄積しやすい特徴があり、食道がんが発生するリスクとなります。また、喫煙も食道がんの大きなリスクとなります。食道の壁は4ミリと非常に薄く、タバコに含まれる発がん性物質の影響を受けやすいと考えられます。喫煙、飲酒の習慣がある方は、適量を心がけてほしいと思います」
秋野が食道がんを公表したことは、食道がんについて広く啓蒙するきっかけになり、多くの人にがん検診を促し、早期発見、治療に導くものとなるだろう。
自身がつらいときであるにもかかわらず、ブログで「今、同じ病で苦しみ耐えてらっしゃる方々ご一緒に闘いましょう」と、他者を気遣う秋野に尊敬の念を抱かずにはいられない。一日も早い回復を願っている。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)