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シリーズ 医療の闇 第1回 薄毛治療の裏側

「はげは遺伝」は本当?防ぐ3つの生活習慣 AGA治療薬では強い副作用で死亡例も

文=新田 龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト 編集協力=小沼未季
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「はげは遺伝」は本当?防ぐ3つの生活習慣 AGA治療薬では強い副作用で死亡例もの画像1「Thinkstock」より

「ブラック企業アナリスト」として、テレビ番組『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)、「週刊SPA!」(扶桑社)などでもお馴染みの新田龍氏が、巨大な利権が絡む医療業界に切り込み、医療に潜む闇を暴露する。

 医療には闇がある。 

 確かに、医療医薬品業界は成長産業だ。2000年、世界の医薬品市場規模は3628億ドル(約36兆6000億円)であった。それが12年時点では9621億ドル(約97兆円)と、わずか10年ちょっとで2.7倍にまで拡大している。

 その中で日本が占める割合も大きい。医療関連のリサーチを世界規模で手掛けるIMS社の調査レポートにおいて、市場の区分けは「北米」「日本」「ヨーロッパ」「アジアおよびアフリカ、オーストラリア」「ラテンアメリカ」となっており、単一国家だけでひとつの調査地域を形成しているのは日本だけだ。それだけ、世界の製薬企業にとって攻略したい魅力ある市場といえよう。

 医療の世界では毎年のように新しい発見があり、新しい技術が生まれ、巨額のお金が動く。もちろん、医療の進歩によって助かる命があり、救われる人がいることは本当に素晴らしい。しかし一方で、必要もない治療を施され、大量の薬を与えられ、「果たしてこれで人は幸せになれているのか」と疑問を持つようなケースも多い。

 本連載では、筆者の元に日々寄せられる数々の告発の中から、特に医療に関するテーマを採り上げる。医療の本懐である「人を治療し、人生をより良くするため」という目的を外れた、医療の闇の部分について暴露していきたい。

 しかし、私自身は医療に関しては素人だ。業界内部の事情に通じた解説者が欲しいが、残念ながら医師や医療業界関係者は一枚岩であり、自らの利権を脅かす可能性のある記事に協力を求めることはそもそも難しい。

 そんな中、当連載の趣旨に賛同いただき、同業者から爪弾きに遭う可能性も厭わずに協力くださる医師に巡り会えた。恵比寿美容クリニック(http://www.ebisu-bc.com)院長、堀江義明氏である。

 堀江氏は、もともと救急救命医からキャリアをスタートし、その後美容医師として経験を積んだ。大手美容外科で部門責任者まで務めていたが、1日70名にも上る診察をこなすベルトコンベア式の対応に疑問を持ち、「患者に寄り添う医療」という思いを実現するために独立開業した。現在は予防医療を軸に、単に症状に向き合うのではなく、患者の生き方にまで思いを至らせる親身な対応を行っている。

 今回は、堀江氏へのインタビューを通じて、薄毛治療関連業界の問題点を明らかにしたい。

高額な治療費を要する薄毛治療

薄毛治療には、どのようなものがあるのでしょうか?

堀江義明氏(以下、堀江) まず、薄毛治療は大きく「育毛」と「発毛」に分けられます。
発毛は、「髪のないところに生やす」、育毛は「今ある髪を育てる」。もともとのコンセプトが大きく違います。育毛には「アデランス」「アートネイチャー」「リーブ21」など、大手サロンの業態があり、マッサージで毛穴をきれいにし、髪が生えてきやすくします。発毛はないところから生やすわけですから、これはもう医療の領域です。医療でなければ「発毛」の文言は使えません。

「大手サロン=カツラをつくっている会社」というイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、彼らの商材はそれだけではありません。まずはお客さんの頭皮をチェックして、頭皮の皮脂を取ることで毛穴をきれいにする、というところから始まります。具体的にはヘッドスパやマッサージなど、コースを組んで施術します。それをやったうえでまだ満足できない人に、最終的な商材としてカツラを提供しているのが一般的です。

 あとは定期購入のサプリメントやシャンプー、育毛剤などでデイリーケアを促します。カツラは一つ数十万円から数百万円しますが、昨今の経済状況で給与が上がらない人も多く、サラリーマンではローンを組めない人が多いです。でもそれではビジネスモデルが崩壊してしまいますから、業界としてはなんとか「保険適用」となるようにしているのです。

–けっこうなお金がかかるものですね。私の場合、今はいいのですが、家族や親戚に薄毛の者が多くて少々心配です。よく、「薄毛は遺伝」といわれますが、実際はどうなのでしょうか?

堀江 遺伝的な要素は大体半分くらいで、あとは生活習慣によって発生することが多いですね。基本的に、もともとあった毛が薄くなる原因は、「頭皮の毛細血管が詰まることで、毛根に栄養が行き届かないこと」なんです。血管を詰まらせないようにするためには、生活習慣を改善するしかありません。ポイントは大きく3つあります。

 1つは「食事」です。油ものを減らして野菜を増やすといいです。以前、「食べる順番ダイエット」がはやりましたが、これは有効です。最初に野菜、次に肉類、最後に米という順番で食べるのです。そして夕食は少ないほうがいいです。夜寝る前に食事を取ってしまうと、腸管での糖分吸収率が高くなります。どうしても夜遅く食べるにしても、米など炭水化物は減らすべきです。

 2つ目は「睡眠」です。よく寝てください。ストレスは毛にたまってしまいます。髪の毛を抜いて調べてみると、ステロイドホルモンの含有量で、直近1カ月でどれくらいストレスがあるかわかってしまうくらいです。ぐっすり寝て、次の日にストレスをためこまないほうがいいですね。

 そして3つ目が「運動」です。

–それなら高いサロンに通うより、よほど安くあがりそうですし、今日からでもできそうですね。ところで、実際に薄毛治療に訪れるのは、どのような人が多いのでしょうか?

堀江 一見、若くて薄毛治療とは関係ないような人がよく診察に来られます。受診する本人はだいぶ気にしていて、将来はげるのではないかという恐怖に近い不安感や、普段の生活への心配が多かったりします。

 この点、薄毛治療は精神安定的な役割も重要だと考えています。コンプレックスに悩む人が美容外科でそのコンプレックスの根源を治療することで、人生に前向きになるという効能があります。いわゆる「プラセボ効果」に近いのですが、話を聞いてもらうだけでも効果は充分にあるという論文も存在しています。若い人は、髪の毛が生えてくるのも早いので、不安に思う人ほど心のケアはもちろん、治療も早めに受けていただきたいです。

AGAの治療薬で深刻な副作用

–「髪を生やしたい」だけではなく、「抜け毛の進行を止めたい」といったニーズもあるわけですね。それも含めると、薄毛治療の需要は相当大きいのでしょうか? テレビCMでもよく見かけますね。

堀江 そうですね。CMなどで「AGA」(男性型脱毛症)という単語がよく使われていた時期がありました。

–今はほとんど見ないですね。何か理由があるのですか?

堀江 それは、欧米でAGAに関する訴訟が起きているからなんです。AGAの代表的な治療薬としては、内服薬「プロペシア」と外用薬「ミノキシジル」の2種類ありますが、そもそもプロペシアは高血圧治療薬でした。服用した一部の人に、毛が生えるという「副作用」があったことから、それが薄毛治療に転用されたのです。

 実際、プロペシアの副作用としては、ED(勃起不全)や、筋力、活力など男性機能が落ちる事例が報告されています。また高血圧治療薬は心臓に作用するので、発売当初数例死亡事故も起きています。しかも飲み薬と塗り薬を併用すると、両方から濃い薬剤が体内に取り込まれ、重篤な症状を引き起こす可能性があります。

 インターネットの検索エンジンでAGAの後にスペースを入れると、予測変換で「副作用」と出てきます。米国食品医薬品局(FDA)の論文でプロペシアの副作用が報告され、「日本毛髪業協会」のメンバーでプロペシアを服用していた人たちは一斉に服用をやめたという話があります。

 治療薬に深刻な副作用があることがわかっているにもかかわらず、代替薬がない状況でAGAのCMを流していた医療業界、奥に潜む闇は深そうだ。
(文=新田 龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト)

新田龍/働き方改革総合研究所株式会社代表取締役

新田龍/働き方改革総合研究所株式会社代表取締役

労働環境改善による企業価値向上支援、ビジネスと労務関連のこじれたトラブル解決支援、炎上予防とレピュテーション改善支援を手がける。労働問題・パワハラ・クビ・炎上トラブル解決の専門家。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。著書25冊。

Twitter:@nittaryo

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