彼らには共通点がある。静岡県御殿場にいる動作解析の専門家、夏嶋隆のもとで合宿を行ったということだ。
服部は、スポーツ誌「Sportiva」(集英社)のインタビューで、夏嶋との出会いについて、次のように語っている。
「足首のくるぶしがすごく痛くなり、いろんな人に診察してもらいました。(病院で)レントゲンやMRI(核磁気共鳴画像)を撮ったり、気功に通ったり、スピリチュアルまで試しました。それでも原因がわからず、知り合いに『御殿場にいい先生がいるよ』と紹介され、思い切って行ってみました。そうしたら、『(足の)指で立って』と言われました。つま先立ちとは逆に、足の五本指をグーのようにして立つのですが、最初は痛くてできませんでした。しかし、3カ月続けていたら、くるぶしの痛みが消えてピッチに立てるようになったのです。どうやら足裏のアーチが崩れたり、指が正しく使えない状態になっていたことが原因だったようです。子供は簡単に指で立てるらしいです。自分の場合、ずっとサッカーをしてきた中で矯正が必要なほどにバランスが崩れていたのが、正常な形に近づいたことで痛みがなくなったようです。あの治療をしていなかったら、もっと早くサッカーをやめていたかもしれません」
毎日のトレーニングで、体の歪みを少しずつ矯正する
足を本来の形に戻す。そのために足指トレーニングを課す。簡単にいえば、これが夏嶋の理論である。その方法が掲載された書籍『足指をまげるだけで腰痛は治る!』(著:石井紘人、監修:夏嶋隆/ぴあ)が8月に発売された。本書では、サッカー界で一般に実践されているトレーニングと夏嶋のトレーニングの違いを久保が分析している。
「俺は、いがんでいる(歪んでいる)歩き方だと、(クラブの)トレーナーにも言われていました。そこでトレーニングで『こっちに傾いている』などと指摘されて、一応矯正するけれど、なぜ傾いているのかというところまでは追究しません。根本から治すのではなく、あくまでも調整だけです。しかし、それでは意識している間はバランスを保てても、疲れて無意識動作に戻ったら、またズレていくという繰り返しです。しかし夏嶋先生は、原因そのものを治します。足指がおかしいからほかの箇所にもちょっとずつズレが生じて、ここに痛みが出ているという具合に原因を明らかにしてくれるんです」
だが、夏嶋のアドバイスを受け入れられない患者は多い。久保も同様だった。
「選手としては、試合に出られればいいと思ってしまいます。2005年に腰痛で試合に出られなくなり、神頼みで夏嶋先生のもとに治療に行ったけれど、本当に聞く耳を持ちませんでした。『痛みさえ取ってくれれば、それで十分。足指なんて腰と関係ないだろ』と考えていたのです。先生にテーピングしてもらうと痛みが取れるから、それで十分でした。しかし、見よう見まねで所属するチームのトレーナーがテーピングしても痛みが取れず、全然違うのがわかるんです。だから、夏嶋先生のテーピングを求めて御殿場まで行きました。
テーピングで痛みが引くと治っていると勘違いして、自分の体がいがんでるとは意識せず、テーピングで治るものだと思ってしまうのです。足指トレーニングは、かなり痛いので、できればやりたくないのが本音です。それだけ痛いということは指がいがんでいるっていうのが、今は理解できます。慢性的な痛みを治すためには、トレーニングを積み重ねるしかありません。治したいと思っていても、皆、最初にゆがみを治す指曲げの段階でやめてしまうのかもしれません。毎日、少ない時間でもやり続けて、『ちょっと変わってきた』という変化を感じ取れれば、楽しくなっていくと思います」(同)
体の不調の根本から治療する夏嶋理論
しかし、その体の変化を感じさせるのを凝り固まった頭が邪魔する。久保も夏嶋の言葉に耳を貸さず、その結果、07年に横浜FCへ移籍してすぐに体が悲鳴を上げた。夏嶋が予測したように、腰痛の再発と膝の問題で日常生活もままならなくなる。そして、ずっと勧められてきた手術ではなく、夏嶋の元でトレーニングを行うことを選択する。
「18歳までは誰の言うことも聞かずに適当にサッカーやってきて、18歳からコンディションや体のケアのことを叩き込まれ、自分の体が楽になるとか気持ちよくなるという感覚を無視していました。体のどこかに痛みがあっても、注射や薬で簡単に楽になる方法を選んでいたのです」(同)
構造医学の概念の欠如が、体の変化を感じ取れなくさせる。そして、いつの間にか慢性的な怪我を抱えてしまう。とあるスポーツ界の権威である医師は「女性選手はX脚が多く、怪我をしやすい」と分析し、そのためにリハビリプログラムを強化したと語っていたが、夏嶋の提案はX脚そのものを改善することにある。そのトレーニングの一端が本書において述べられている。年齢を重ね、慢性的な痛みを持つ人は国内には何千万人といる。痛みを我慢して過ごす日々を送るのではなく、本書に目を通してみてはいかがだろうか。
(文=Japan.Journal編集部)