つまり、食事の量を減らす最も簡単な方法は、まず取り分け用のスプーンは、小さめのサイズを使うことだ。お玉など、大きい器具を使うと無意識に多くよそう傾向があるからだ。
例えば、アイスクリームをすくうスプーンで実験したところ、80ccのスプーンを50ccのサイズに替えたところ、客がお皿に取ったアイスクリームは平均して約19%も減った。
また、食べる時に使うスプーンやフォークをひと回り小さくしてみたところ、食べる量がどう変わるか実験した。客が満足いくまで食べた状態で、最終的に食べた総量を比べてみると、およそ2割程度少なくなることがわかった。しかも、多くの客は自身の食べる量が減ったことに気付いていなかった。つまり口に入れる量を減らし、ゆっくり、よく噛んで食べることで、早く満腹感を得られたのだと考えられる。
さらに、取り皿を直径27cmから23cmへと替えてみたところ、客の食べる量はおよそ9%減った。これは、皿にたっぷり盛ったように見える錯覚も影響しているだろう。また、一度に皿に載せられる量が減るにもかかわらず、席を立つ回数は増えていないことから、何度も料理を取りに行く手間が食事量に影響を与えているとみることができる。
●色のトリックを使う
次に、色を活用する方法がある。具体的には、食事を取る皿の色を変えること、そして内装や調度品を赤系の色に変えることだ。食事の際に使う皿の色について、じっくり考えたことがある人は少ないだろう。だが、実は皿の色も食べる量に関係している。
例えば、黒・白2色のパスタ皿で実験したところ、黒い皿よりも白い皿のほうが、22%も多くパスタをよそった。ちなみに、パスタは白いクリームソースのパスタであった。食べ物と皿の色のコントラストが低いほど、人は食べ物の量を意識しなくなり、多く盛ってしまうのだ。
また、看板や内装などを赤くすると、客の滞在時間が短くなることがわかっている。マクドナルドや大衆居酒屋の看板が赤いのも、カジュアル感を出しつつ回転率を上げることに役立っているといえる。
さらに心理学では、色が食欲や味覚にまで影響することも証明されている。色の濃い器に入った料理や飲み物は味が濃いと感じ、寒色系は食欲を減退させ、暖色系は食欲を増進させる効果があるという。
余談だが、デザートのケーキでは、シンプルな洋ナシタルトよりも数種類のフルーツが載ったフルーツタルトのほうが4倍多く食べられており、客は単色よりもカラフルなほうを好む傾向が浮き彫りになる。より多くの種類を食べたいという心理が働くからだろう。
彩りが豊かな食べ物は人の興味を引き、同時に満足感を与える。前述のパスタの例でもわかるように、単色の食べ物であってもコントラストの高い色の皿に盛ることで、客の食べ物への意識が強まり、結果的に量を減らせるのだ。
このような結果は、飲食店のみならず、普段の生活においても応用できるだろう。スプーンやフォークを一回り小さくし、料理の映える食器を使うことで、食べる量を減らしつつ高い満足感を得られるということだ。
(文=氏家秀太/空間プロデューサー・ビジネスコンサルタント)