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ところで、話は少しそれるが、個別化医療は病気の治療よりも予防のほうに効果が大きいとされている。がんになってしまったら、治療法の選択肢はそう多くない。しかし、がんになる経緯はまさに千差万別、その人の遺伝子、腸内細菌、生活習慣によって違うため、その予防こそ個別対応で手を打たなければならない。個別化予防に一番効くのは、腸内フローラのメタゲノム解析と、それに応じた適切な細菌バランスの構築だろう。
●科学としての位置づけ
この腸内フローラの話は、科学の方法論としても面白い。ほぼ無限に近い種類ある腸内細菌のシステム全体を把握しようとする点で、最近はやりのビッグデータ解析や人工知能の技術が必要となる。また、モデルをつくるためには、人工生命のシミュレーションが役立つかもしれない。
そもそも20世紀においては、「遺伝子の競争戦略」などとはやし立てられる中で、弱肉強食の世界を生き残るために機能を先鋭化した遺伝子の振る舞いを探っていた。しかも個人は、自分の遺伝子を知ることはできても変えることはできない。なんとも勇ましくも角の立った決定論的世界観であった。
これに対して、腸内フローラの研究は、ほぼ無限ともいえるヒト以外の多様な細菌の遺伝子が共生することで、変化しながら均衡を保ち、維持存続するさまを探っている。そこでは、多様性、冗長性、自律性、共生の原理が支配しており、しかも個人にとっては変更可能なものである。なんとも緩くて複雑系でもあり、21世紀的な科学であって意義深い。
(文=小林敬幸/『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』著者)
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