●腸内フローラ分析とは
この7年ほどで、腸内フローラ(腸内細菌叢)分析の分野において、画期的なイノベーションが起こっている。腸内フローラは、アレルギー、肥満とやせ、がん、糖尿病、うつ、認知症、アンチエイジングと、現代人の関心の高い健康の問題にことごとく関係している。英有力科学誌「Nature」も特集増刊を出版し、今年2月にはテレビ番組『NHKスペシャル』でも特集され話題となった。ビジネスでは、ヒトゲノムの分析よりも短期的かつ直接的に大きな影響があるだろう。
ひとりの人間が持つ腸内細菌は1~1.5kgで、最大の臓器である肝臓と同じくらいの重さだ。細胞数は人体の60兆を超える100兆以上、種類は約1000種類あり、それぞれが相互に必要な物質を供給し合い、主に大腸の中で共生している。エコシステムというか、それ以上のちょっとした「宇宙」ともいえるだろう。腸内細菌の多くは、嫌気性で酸素に触れると死んでしまい、しかも他の菌と共生関係にあるので、99%は実験室で分離培養できない。だから、従来の研究のように糞便を酸素に触れないように取り出して、その中から一つの菌を単離培養して性質を調べるという方法では、分析がなかなか進まなかった。
しかし、2007年に服部正平東京大学大学院教授が、ヒトゲノムの解析で培った遺伝子解析技術を駆使して腸内細菌を「メタゲノム解析」したのがブレークスルーとなった。分離培養せず、13人の腸内細菌の遺伝子をまとめて調べたのだ。07年当時、一人の腸内フローラを調べるのに1000万円かかった分析費も、今では数万円程度にまで大幅なコストダウンがなされ、世界中の研究者がさまざまな人種や環境の人の腸内細菌を調べている。DNAが同じ一卵性双生児で、肥満と痩せで体形が異なる2人は、腸内細菌が違っているという。
●腸内フローラの重要性
(1)免疫系との関係
人の免疫システムの60%以上が腸に集中しているので、腸内フローラは人間の免疫がうまく機能するかどうかに大きく影響する。腸内フローラの働きによって、免疫機能を適切に働かしたり、抑えたりしている。だから、腸内フローラのバランスが悪くて免疫が過敏になるとアレルギーがひどくなるし、働きが鈍くなると免疫機能が弱り、病気にかかりやすくなる。そこで、腸内フローラの分析により、花粉症やアトピーをはじめとするアレルギーなどの免疫系病気の解決策を見いだせる可能性がある。この分野では、本田賢也慶応義塾大学教授が世界をリードしている。
次に、がんを引き起こすアリアケ菌なる腸内細菌も見つかっている。がん研有明病院の研究者が見つけた。大腸がんは、日本女性のがん死亡原因1位、男性でも20年に2位になるといわれており、腸内フローラの状態が大腸がんと密接に関係していると思われる。