ZOZOTOWN出品企業やGoogleマップのゼンリンが陥った「プラットフォーマーの横暴」
前回までの記事で、欧米のトップスクールで教えられているネットワーク分析の理論、具体的には「弱い紐帯の強さ」「構造的空隙の理論」「ネットワーク密度」「構造同値」「ランダムネットワーク」「スケールフリーネットワーク」「ネットワークの中心性」「ハブ」「優先的選択」「スケールフリーネットワーク」について説明してきた。
今回からGAFAと呼ばれるグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンやマイクロソフトなどの世界の時価総額上位企業の多くが採用しているプラットフォーム戦略(R)について説明していきたい。
プラットフォーム戦略(R)(※1)とは「複数の関係するグループを、場あるいは舞台(プラットフォーム)に載せることで、外部ネットワーク効果を生み出し、一企業という枠を超えた、新しい事業のエコシステム(生態系)をつくり出す」経営戦略で、21世紀の「場」を支配するという世界最先端の企業戦略だ。
そしてプラットフォームの主催者であるプラットフォーマーは、ルールの支配者であり、そのルールは常に変更されるリスクがある。
ファッションEC最大手の「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するZOZOは、昨年12月に「ZOZOARIGATOメンバーシップ」を導入したことでオンワードホールディングスやライトオンなどの一部のブランドが撤退したと報道されたことは記憶に新しい。
このメンバーシップは、年額3000円または月額500円の会費を払えば、新規入会月は30%引き、その後も10%引きであらゆる商品が購入できるという今流行りのサブスクリプション型サービスだ。割引分はゾゾタウンが負担するものの、新商品でもいきなりセール価格で買えることになるのはブランド棄損につながる可能性があるとアパレルメーカー側が考えるのは、当然のことといえる。
ブランドにとって経営戦略上、価格は極めて重要な要素であることは、誰でも容易に理解できるだろう。たとえば高級スポーツカーのフェラーリが、ある店では常に10%引きになるとしたら、どのようなことになるだろうか。
一方で、ゾゾタウンというプラットフォームは顧客への販売力があるのも事実であり、だからこそ最大手のECサイトまで成長してきたといえる。売値の30%をプラットフォーマーであるゾゾタウンに手数料として支払ってでも多くのブランドが出店しているのは、自社で販売するよりもそのゾゾタウンというプラットフォームに価値があるからにほかならない。
小生は約10年前の2009年に『新・プラットフォーム思考』(朝日新聞出版)、2010年に『プラットフォーム戦略』(東洋経済新報社)という本を上梓した。『プラットフォーム戦略』で強く警告したことは、主催者であるプラットフォーマーは自身のプラットフォームが成長して成功すると、「プラットフォームの横暴」を行うリスクがあるため、そこへ参加する企業は事前にそのリスクへの対応策を検討してから参加するかどうかを決定しなければならないということだった。
今回のゾゾタウン側のやり方にも問題があったといえるだろうが、参加ブランド側も当然、このような事態が起きる可能性は予見できたはずだ。筆者は一方的にゾゾタウンが悪いというよりも、むしろ参加ブランド企業側も確固たる経営戦略がないままに、安易にゾゾタウンというプラットフォームに参加してしまったという戦略ミスがあったと考えている。
Googleマップの異変
2005年のグーグルマップ開始当初から地図最大手のゼンリンが地図データをグーグルに提供してきたが、その契約が終了したのではないかとの憶測が出ている。
なぜならば3月下旬からネット上でGoogleマップへの異変が数多く指摘され始めたからだ。グーグルマップの利用者から、地図から細い路地やバス停が消えたり、道路の地名や地形が変わったりしているなどの指摘が相次いでいる。さらに地図の右下にあったZENRINという表記がなくなり、「地図データ(C)2019 Google」となっている。このため、3月22日にはゼンリンの株価は一時ストップ安まで売られた。
なおゼンリンは「一部メディアより、他社の地図サービスについて当社に関する報道がなされておりますが、当社として発表したものではございません」とのコメントを公開している。一方で、3月20日にWebサイトやアプリ向けに地図サービスを提供する米国のマップボックスがゼンリンと提携して、日本の地図データを強化したと発表した。マップボックスにはソフトバンクグループのビジョン・ファンドが出資している。
あくまでも憶測であるが、もしグーグルが10年以上自社で蓄積してきた地図情報を基にグーグルマップを提供する方針に転換したとしたのであれば、これもグーグルという巨大プラットフォームの横暴といえるのではないだろうか。しかしゼンリンが新たなパートナーとの契約を水面下で行ってきたことは、注目に値するだろう。すなわち、「プラットフォームの横暴」に対してしっかりと対応する戦略を有していたと考えられる。もちろん経営へのインパクトがどのようなものかは現時点では不明であるが、戦略的な対応を経営陣が認識していることは大きい。
それでは「プラットフォームの横暴」とは何か。あらためて拙著『プラットフォーム戦略』(東洋経済新報社)から説明したい。
プラットフォームの横暴とは
勝ち組となったプラットフォームは、過去の歴史を見てもわかるように次第に「横暴」になっていく傾向がある。たとえば突然参加手数料を値上げしたり、みずからコンテンツを販売するようになったりするような動きだ。しかし、いまや大企業から中小企業まであらゆる企業がプラットフォームを利用するようになってきている。有力なプラットフォームに参加すれば市場へのリーチが拡大し、コストの削減ができる場合も多いからだ。
ここで多くの企業は、安易に戦略なくプラットフォームに参加してしまったために、取り返しのつかない失敗をしてしまっているのだ。プラットフォームが成功するにしたがって、プラットフォーマーの横暴が始まることはよく理解しておく必要がある。典型的なパターンは以下のとおりだ。
1.利用料の値上げリスク
プラットフォームが成功すると利用料が将来上がるケースが多いことは、肝に銘じる必要がある。
マイクロソフトはウィンドウズがPCのソフトウェアの主流になってからは、約20年間2年ごとにOEM(相手先ブランド製造)先へのライセンス料の値上げをしてきている。
日本でも楽天市場が当初は月額固定5万円、半年間分の前払いだったが、途中から売上連動のレベニューシェアに変更された。現在は推測だが店舗の売上の11%程度が楽天に手数料として入っているようだ。
このような変更が行われた際には当然、店舗からは猛烈な反対運動などが起き、一部の店舗は脱退したようだが、プラットフォームが成功してしまっている以上、代わりの店舗はいくらでも入ってくるために、店舗側の交渉力は極めて弱くなってきているのが現実だろう。
2.プラットフォーマーによる垂直統合リスク
成功しているプラットフォーマーは、自己のプラットフォームに参加するグループやその構成要員であるプレーヤーを、自社の事業の一部として垂直統合しようとする場合がある。
とくにテクノロジー産業では、この傾向が顕著に見られる。たとえばマイクロソフトはマイクロソフトオフィスやエクスプローラーに各種機能を追加していって、他社が提供している機能で人気があるようなものを自社で提供するような戦略を取ってきた。
3.プラットフォーマーが顧客との関係を弱体化させるリスク
プラットフォーマーがエンドユーザーへの支配力を強めていく危険性や、競合プレーヤーを招き入れてくる可能性には注意が必要だ。
2000年から2001年にかけて書店チェーン、家電小売やGAP、HMV、トイザらスなどもアマゾンに参入したが、やはり同業の中小企業ベンダーが続々と参入してくると差別化が難しくなり、結局これらの大手は数年後アマゾンを離脱して独自のプラットフォームを構築することとなっている。
多くの成功したプラットフォーマーは、当初は必ず「プラットフォームを利用してプレーヤーと競合することはしない」と断言するものだが、これらが「トロイの木馬」になる危険性に常に注意を払う必要があるのだ。
プラットフォームに参加する前に自社の経営戦略を構築することが、いかに大切かが理解できると思う。次回以降さらに詳しく説明していこう。
(文=平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長)
※1:プラットフォーム戦略(R)は株式会社ネットストラテジーの登録商標