もし安易に国内の端末メーカーを市場から追い出してしまえば、最終的には先進的な部品の開発、そして輸出拡大へとつなげる道が断たれてしまうことにもなりかねない。スマートフォン開発に必要な主要部品の供給を日本が確保するためにも、国内の端末メーカーが先端的な端末を開発し続けることは重要であるし、そのためにはメーカーの競争力回復に向けた努力だけでなく、販売奨励金を強制的にゼロにするのではなく、いかにソフトランディングするかという努力も求められているのだ。
SIMロック解除は販売奨励金にどこまで影響してくるのか
SIMロック解除が義務化されたことで注目されるのは、今後キャリアの過剰な割引施策抑制にどこまで影響してくるかということであろう。過去の取り組みから振り返ってみても、SIMロック解除義務化における総務省の本当の狙いは、キャリアの値下げ競争を促進するだけでなく、販売奨励金による過剰な端末の割引販売を抑制することにあるからだ。
当然ながら、SIMロック解除がしやすくなればなるほど、SIMロックを前提とした割引がしづらくなるため、販売奨励金による割引額は減少していくと考えられる。だがそもそも、割引施策に欠かすことのできない「2年縛り」の仕組みは当面残ると考えられることから、キャリアもそれを前提とした端末割引を継続する可能性は高い。
SIMロック解除義務化の実施に合わせ、MVNOやSIMフリー端末を販売するメーカーが新戦略を打ち出したり新たな提携を発表したりするなど、勢いづいているのは確かだ。だが日本では販売奨励金による割引の影響で、高額なiPhoneが販売を大きく伸ばし、すでにユーザーの心をつかんでしまっている。それだけに、SIMロック解除義務化が有効に働き、MVNOらがシェアを大きく伸ばせるかどうかは、キャリアの販売奨励金による割引、ひいてはiPhoneの価格がどう変化するか次第ともいえるのだ。
iPhoneが圧倒的な人気を集める中、割引額を下げることはユーザーの満足度を下げることにもつながりかねない。キャリアがそうした道を積極的に選ぶかといえば、現時点では考えにくい。割引額を減少させることによって急速なユーザー離れが進むとすれば、リスク覚悟で一括0円のような施策を取る可能性もないとは言い切れない。
SIMロック解除義務化の影響を受けてユーザーが大きく動くのは、義務化の対象となる新しいiPhoneが今後発売され、そのiPhoneがSIMロック解除期限を迎えた後と考えられる。それゆえ義務化による効果がどの程度あるのかは、少なくとも1年以上は様子を見る必要がある。今年から来年にかけて、スマートフォンの販売方法がどう変化していくかは、注視しておくべきだ。
(文=佐野正弘/ITライター)