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無料予備校「ただよび」、ユーチューブで開校…元東進カリスマ講師・吉野敬介氏が校長

文=深笛義也/ライター
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「ただよび」の森田鉄也氏(左)と吉野敬介氏(右)

“タダでしょ!”が“今でしょ!”を凌駕するか。

 ユーチューブにおいて4月6日から、無料の予備校が始まる。その名も「ただよび」。予備校のヘッドマスター(校長)は、吉野敬介氏。中学時代から暴走族となり特攻隊長にまでなったが、失恋をきっかけに20歳で大学受験を志し、國學院大學文学部に合格。4ヶ月の猛勉強で25だった国語の偏差値を86にまで上げた経験にもとづき、30年もの間カリスマ講師として予備校の教壇に立ち約100万人を合格に導いてきた。

  吉野氏は「ただよび」への思いを語る。

「たとえば今年、東進ハイスクールから800人くらい東大に入ってますけど、750人くらいは特待生で1年間ほぼ無料で授業を受けているわけです。それまで頑張って優秀な成績を出してきた彼らを責める気はまったくないけど、そういった不平等があるわけですよ。予備校って、年間80万円くらいかかります。30前後で結婚して子どもが17、18歳っていうとお父さんは40代じゃないですか。40代で80万円ってけっこうでかいですよね。

 世の中って、すべてのことが不平等じゃないですか。生まれながらの容姿でも生きていく上で損得が出る。もともと頭のいい奴もいれば、運動神経のいい奴もいる。だからせめて、大学に入るまでの勉強は無料にできないかっていうのは、ずっと考えてきたんですよ。全国で俺は講演してきてますけど、都市と地方の教育環境の格差っていうのはすさまじいものがある。日本はもはや格差社会じゃなくて階級社会ですよ。教育はすべて無償化されるべきだけど、消費税ばっかり上げられちゃって何にもしてくれない。だから自分でできることで、無料の予備校をやろうと思ったわけです。ユーチューブだったら、全国どこにいても見られるわけですから」

 代々木ゼミナールや東進ハイスクールでトップの人気講師だった吉野氏は、ユーチューブでどんな挑戦をするのか。

「地方に公開授業に行ったりすると、先生の大ファンですみたいな生徒が来るんだけど、話してみると映像の授業を1.5倍速で見てるっていうんですよ。90分授業があれば、10分くらい雑談するんだけど、そこだけ普通の早さで見てるとかって言う。『逆だろおまえ』って呆れるんだけど、90分座って授業を受ける時代じゃなくなってるんですよね。

 基本的に授業は10分にします。『む』の識別で10分、『る・らる』の識別で10分という形でやります。長文を90分やる時もありますけど、その時は文法はもう頭に入っているという形。もし分からない部分があったら、もう一度、文法の10分を見ればいいし、分からないところは何度も見ればいい。10分だったら電車の中でも見られるし、効率いいんじゃないかな思うんですよ。

 今、授業の撮影とかを進めてるんですけど、やってみて気づいたのは、タダっていうのは本当に難しいということ。普通の予備校だったら、親が金払ってくれてるからってことで、しょうがないから授業受けるかっていうこともあるでしょう。でもタダだとつまんなかったら見るの止めようってすぐなっちゃう。絶対に飽きさせない授業をしなきゃいけないわけです」

 ユーチューブで無料で見られるなら、社会人にとっても恩恵ではないだろうか。大人になってから「徒然草」「源氏物語」「平家物語」などを原文で読んでみたいと思う者も多いはずだ。

「源氏物語の54帖を、普通の人が読んだら1年くらいかかっちゃう。それをおもしろおかしく話してあげるということもできると思います。将来的には、古文にとらわれず、いろんなことをやりたいんですよ。今、日本語を習っている外国人が、350万人くらいいる。そういう人たちに向けて日本語を教える講座もやりたいですね」

英語の担当は森田鉄也氏

 英語を担当するのは、慶應大学、東京大学大学院で英語学や言語学を学んだ、森田鉄也氏。河合塾、東進ハイスクールで教壇に立ってきたカリスマ講師だ。

 森田氏が「ただよび」への思いを語る。

「今、リスニングが重視されてくるのに、多くの学校の先生はそもそも教え方も分からない。自分たちが習ってきてないんで、やれって言われたって無理なんです。僕は、国際的な英語の教え方の資格を取ってます。世界では当たり前の教え方なのに、日本でやると奇をてらってるように扱われるんです。日本は、他の言語と比べ英語教育が一番最初に進んだ分、一番遅れてるんです。一番最初のやり方をずっと続けてる。そういう状況に一石を投ぜられればいいと思っています」

 日本人が学習する時に困難に感じることの1つは、日本語と英語との語順の違いだ。フランス語、スペイン語、イタリア語などのヨーロッパの言語は、英語とほとんど語順が同じ。それらの言語圏の人々は単語を覚えて入れ替えるだけで英語を習得できる。世界的な英語の教え方は日本人にも通用するのだろうか。

「国際的な教え方というのはどこの国の人、どの言語の人にも通用するので、語順の違いということもクリアできます。だけど、その分きちんと基礎をやらないといけないですよね。大学入試の時に、文法だったり読解に関してはえらく難しいことをやってるのに、ライティングに関しては本当にダメなんです。これは、東大・早慶レベルだろうと関係ない。基礎がまったくできてなくて、読解問題とライティングの問題の差がむちゃくちゃ開いてるんです。

 せっかくいろんな教え方を習ってきたんで、それができる機会がやっと来たかなと思ってます。学校の先生たちが見ても、こういうふうに教える方法があるんだなっていうことが分かります。動画を学校の授業で使ってもらっても構いません。予備校というのは、自分のところに来なければ情報を出さないという隠す文化ですけど、『ただよび』は無料で公開されます。大学入試では、英語4技能(聞く・読む・話す・書く)が使用可能な入試もありますが、地方に行ってみると多くの先生たちはどういった試験なのか分からないという状況です。そういう先生たちにも活用してほしいです」

  英語を喋れるようになりたい、スキルアップしたいと考えている社会人にとっても、無料の授業は朗報だろう。

リアルな大手予備校より質の高い授業を

 無料の予備校はビジネス的に成立するのだろうか。「ただよび」を運営する、株式会社レッドクイーンの慶長聖人社長は語る。

「事業のシミュレーションを実施した結果、理論値的には十分成立するビジネスモデルです。ユーチューブの再生回数に伴う広告収入に加えて、教育への貢献というCSRの一環としてスポンサーになってくれる企業からのタイアップ収入も見込まれます。全世界で教育の無償化というのは国策として唱えられていますが、アメリカはコミュニティカレッジに至るまで無償化が進んでいます。日本では文科省が20年前から無償化を提唱しているものの、まだまだ不十分と言わざるを得ません。高校の義務教育化も課題は山積しています。

 我々がやろうとしているのは、一足飛びに大学受験のための予備校の授業料を無料化するということです。これは視聴者全員に奨学金を出すのと同じです。古文と英語から始めますが、自分もやりたいという先生方も出てくるでしょうから、オーディションを行う予定です。来年からはフルラインナップで大学受験の全教科の先生を揃えて本格的に予備校としてスタートします。これは改革です。吉野先生や森田先生のようなトップクラスの講師を揃えますので、リアルな大手予備校より質の高い授業を提供することも可能になります。今後3年間で、予備校業界は相当に変わるでしょう」

  大学受験予備校授業料の無料化が実現すれば、無限の道が広がる。学校教育すべてをユーチューブなどで行い、学校そのものは別のものに変容する可能性さえ秘めているだろう。

(文=深笛義也/ライター)

深笛義也/ライター

深笛義也/ライター

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。10代後半から20代後半まで、現地に居住するなどして、成田空港反対闘争を支援。30代からライターになる。ノンフィクションも多数執筆している。

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