キャリアは総合商社に変貌を遂げるか
ではなぜ、その一方でドコモはスマホとは一見無関係に見える暮らしに関するサービスの拡大を進めているのだろうか。そこにもやはり、市場の変化が大きく影響していると考えられる。
先に触れた通り、国内でもすでに多くの人がスマホを手にしているし、手にしていない人はシニアを主体とした、スマホの利用に積極的ではない人達だ。加えて実質0円販売が事実上できなくなったことにより、買い替えによるキャリア間の競争も沈静化。今後は高額な通信料を嫌うユーザーが、格安SIMなどと呼ばれるMVNO(仮想移動体通信事業者)など低価格のサービスへと徐々に流れる以外、大きな競争は起きにくくなるものと考えられる。
そこで今後、キャリアにとって重要となるのは、キャリアを変えることなく、継続的にサービスを使い続けている既存の顧客に対して、どのようなサービスを提供し、通信料以外の収入を拡大していくかということ。KDDIが電子マネーによる決済サービス「au WALLET」や、保険やローンなどをまとめて契約できる「auライフデザイン」などに力を入れているのも、自社ユーザーに対して多くの付加価値を提供し、ひとり当たりの単価を上げるためなのだ。
ドコモもここ数年、らでぃっしゅぼーややABCクッキングスタジオなどといった子会社の事業や、総合マーケットサービスの「dマーケット」など、通信以外のスマートライフ領域の事業を拡大しており、それが現在の成長エンジンとなっている。それだけにドコモは、今回の発表会でも成長著しいスマートライフ事業の拡大を明確に打ち出すべく、暮らしに関連する新しいサービスを中心に据えた発表会を実施したと見ることができそうだ。
これまでスマホに高い関心を示してきた先進層は不満が募るだろうが、キャリアはより大きなマスとなるユーザーに対して、生活に関連するさまざまなサービスを提供する取り組みを積極的に進めてくるだろう。VRが劇的な普及を遂げるなど大きなパラダイムシフトが起きない限り、キャリアは今後通信事業者から、総合商社へとビジネススタイルを大きく変えていくことになるかもしれない。
(文=佐野正弘/ITライター)