終息の兆しがなかなか見えない新型コロナウイルスの脅威だが、ビジネスシーンにもリモートワークの導入・浸透という影響を及ぼしている。出社の必要なく業務ができるという効率性の高さが注目を集め、アフターコロナでもリモートワーク継続を検討している企業も多いだろう。
しかし、あらゆる物事にトラブルは付きもの。SNSなどではリモートワーク中のハラスメント、通称「リモハラ」のトラブル事例が数多く投稿されている。リモートワークという新たなビジネススタイルと付き合っていくうえで、リモハラをしっかりと理解し、対処していかなければならない。
そこで今回はリモハラの実態について、行政書士・社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー事務所である「きむらオフィス」代表として、数多くのコンサルティング業務を請け負ってきた木村政美氏に、その原因や解決策について聞いた。
企業側の暗中模索状態がハラスメントの芽を生む
まず、リモハラが起こってしまうのはどのような背景があるのだろうか。
「多くの企業にとってリモートワーク導入は、決して万全を期したうえでの始動ではなかったでしょう。導入によってどんな弊害が出るのか、どんな部分を補強していかねばならないのかについて、雇用側も暗中模索のなか、いわば強制的に始まってしまった変革ともいえるのです。そしてリモートワークが準備不足で始まったため、上司側にリモハラへの意識がまだ追いついておらず、リモハラを生みやすくしているのではないでしょうか」(木村氏)
たしかに、あっという間に広まり日常の一つになった感のあるリモートワークだが、まだまだ多くの企業が“リモートワーク初心者”といえるだろう。では、次にリモハラの実態について聞いてみよう。
「やはりパソコンを介したビデオチャットツール、有名なところだと『Zoom』などの使用時に起きることが多いようですね。例えば、常時ビデオチャットにログインするように指示され、常に監視下に置かれながら仕事をさせられたというケースがあったようです。
ビデオチャットで会議や打ち合わせをしている際にも、“相手の生活に踏み込みすぎる”という問題が多発しています。カメラに映り込む容姿、服装、背景や、マイクを通して聞こえる声や同居人の痕跡や生活音などを言及されたり、業務上は支障がないのに否定的・威圧的に叱責されたりというケースがありますね。
また、業務時間以外のビデオチャットでのリモハラでは、上司が取り仕切る強制のリモート飲み会の回数が多かったり、上司がいつまでもログアウトしないので夜中までリモート飲み会に長時間付き合わされたりと、プライベートな時間で起こるケースもあるようです」(木村氏)
一口にリモハラといっても、リモートによるセクハラ(セクシュアルハラスメント)、リモートによるパワハラ(パワーハラスメント)、リモートによるアルハラ(アルコールハラスメント)と多岐にわたるようだ。
「これは男女限らず起こりえる事例だと思いますが、上司がチャット相手の部下の画面の背景から、異性がいた痕跡などを見つけて、『カレシ(カノジョ)いるの?』といったセクハラ発言をしてくるといったもの。また、女性部下の方が男性上司からメイクや服装に関する事を指摘され、嫌な思いをしたという話はたまに聞きますね。
リモートによるセクハラの事例は、往々にして一対一のビデオチャットで起きる率が高いようです。他者の目がないのをいいことに、上司側に親密さを履き違えてしまう心理が働くのでしょう。物理的な距離が離れていたとしても、言ってしまえば“密室に二人でいる”ような雰囲気と変わらないわけですからね。そして恐ろしいのは、コロナ禍前、実際にオフィスに出勤していたときは言わなかったような人が、ビデオチャットになるとそのようなハラスメント発言をするようになったという場合があり、一歩間違えると人間不信にもなりかねません」(木村氏)
今はまだ自衛の意識と対策が必要か
では、例に挙げたようなリモハラトラブルを防ぐには、どういった対策が必要なのだろうか。
「何よりもハラスメント発言をする側の心持ちを正すことが一番大切です。交際している恋人がいようが、メイクをしていなかろうが、仕事内容に変わりはありませんからね。ただ、ハラスメントの意識が薄い上司たちが変わってくれるのを待つだけでは、被害が後を絶たないでしょう。
ですから、『Zoom』などには背景を隠す機能も付いていますので、そういった機能を活用して、自分のプライベート部分は自分で隠すという意識を強く持っておくべきでしょう。自分が発言するとき以外は、ミュート機能で音声が入らないようにするといった対策も有効だと思います。
またビデオチャット時の身なりを整えるというのも効果的。わざわざスーツを着る必要まではないと思いますが、カジュアルすぎず清潔感のあるパリッとした身なりにする。あくまで隙を与えないように“これは仕事なんです”という姿勢を崩さず、きちんと線を引ける態度を取っていくことが大事なのではないでしょうか」(木村氏)
木村氏は大人数でのビデオチャット時にも注意するべき点はあると指摘する。
「ハラスメントとまではいかないかもしれませんが、大人数でビデオ会議などをする場合、対面して一堂に会する通常の会議のときよりも、発言の少ない部下を上司が叱責する率が高まるという声もあるようです。
というのも、対面の会議では発言者に視線が集まるので気づきにくいのですが、ビデオチャットの場合、画面に参加者の顔が同じ大きさで並んで映っているため、発言が少ない人物がより目立ってしまう傾向があるようなんです。そして、そういった事情も関係してか、音声だけでビデオチャットに参加したがる社員が増え、上司側が顔出し参加を強制させたことでトラブルが発生した、といった事例もありました」(木村氏)
ビデオチャット以外の場面でのリモハラについても教えていただこう。
「よくある事例としては、業務時間の管理についてのリモハラが挙げられるでしょう。リモートワークにおいて上司がちゃんと働いているのかと心配しすぎて、数十分おきにメールやチャットでの業務連絡を強制するなどして、部下からハラスメントではないかと指摘される事例もありましたね」(木村氏)
現在は、オフィスに出勤するという従来の勤務スタイルから、リモートワークという新しい勤務スタイルへの過渡期であり、その変革時期のひずみとしてリモハラが生まれてしまっているのではないだろうか。リモートワークが今以上に浸透していき勤務スタイルとして成熟していけば、リモハラも減少していくのだろうが、現状は個々人が、リモハラに対して自衛の意識を強く持っておく必要があるのかもしれない。
(文=A4studio)