そこで、これら「単なる悪口」「男女間のスキャンダル」をネット上で広められた被害者は、刑事ではなく、民事での事件化を目指す。弁護士などに相談し、書き込み者に対して、民事で責任を追及するというわけだ。
●ネット中傷犯特定の第一歩 IPアドレス開示仮処分
民事での事件化は、書き込まれた被害者が、書き込みを行った加害者を、まずは特定する必要がある。つまり、加害者を被害者が捜すというわけだ。
具体的にどうするか?
最近の例では、2ちゃんねる掲示板の場合、まず当該書き込み内容の削除、およびIPアドレス開示の仮処分命令申請を裁判所に求めるのが一般的である。この仮処分は、今ネット上では「パカ弁(パカパカとIPアドレスを開示させるの意味)」と呼ばれる弁護士のみならず、特にIT関係を得意としない弁護士でも、頼めば受けてくれるものだ。
なお、この仮処分とは、証拠保全などのため、急ぎで処分を行わなければならない場合に用いられるもの。手続きさえ整っていれば、IPアドレス開示の仮処分命令が出る。
そして裁判所から仮処分命令が出れば、今度は2ちゃんねる掲示板運営元にIPアドレス開示を求める。アクセスログが残っていれば、当該書き込み発信元のIPアドレスがわかる。しかしアクセスログが破棄されていれば、当該書き込み発信元の特定は不可能となる。
ここで2ちゃんねる掲示板が、当該書き込みを行ったIPアドレスを公表すれば、今度は、このIPアドレスを割り振っているインターネット接続業者に、当該書き込みに関する発信者情報開示請求を提出、インターネット接続業者からの回答を待つ。もし発信者情報が開示されたならば、この発信元に対して直接、民事で名誉毀損による損害賠償請求を行うことになる。
●書き込み者特定、現実的には困難
しかし事はそう簡単ではない。なぜなら、インターネット接続業者に、当該IPアドレスの発信者情報開示請求書を送っても、ほとんどが回答拒否で戻ってくるからだ。
当該書き込みの発信元の契約者が、インターネット接続業者とサービス利用の契約時に、届け出た自らの氏名、住所、電話番号、メールアドレスといった個人情報を、請求者=被害者に伝えてもいいというケースが、めったにないことは、容易に想像できよう。
「契約者が、請求者に対し発信者情報の公開を望むケースはほとんどない。インターネット接続会社としては、請求者の言い分だけを聞いて、契約者の個人情報を提供するようなことはできません」(インターネット接続会社関係者)
そうすると被害者は、そのインターネット接続業者を被告として、発信者情報開示訴訟を行わなければならない。この訴訟に勝って、初めて“発信元のPC”が特定できるのだ。そして、この裁判に勝訴して、ようやく民事における名誉毀損による損害賠償請求が行えることとなる。つまり、コスト面でも費用はかさみ、ハードルが高いといえる。
●ネット誹謗中傷犯捜しのコストは約50万円
以上、これまで見てきた内容を整理すると、書き込み者の発信元を特定するには、以下3つのハードルを乗り越えなければならない。
(1)裁判所による、当該書き込み発信元IPアドレス開示請求の仮処分
(2)開示されたIPアドレスを割り振っているインターネット接続業者へ、発信者情報開示請求を直接行う。
(3)インターネット接続業者への発信者情報開示請求が不調に終わった場合、インターネット接続業者を被告とする発信者情報開示訴訟を行う。
これら作業を弁護士に頼んだ場合、
(1)IPアドレス開示だけで約20万円
(2)5〜10万円
(3)約30万円~
というのが相場だ。これらすべてを行うと、ざっと50万円以上はかかるといったところか。決して安い金額ではない。