もっともこれは、書き込んだ者が用いたPCのIPアドレス(インターネット上の住所)が、きちんとした手続きを踏めば開示されるということにすぎず、「誰が書き込みを行ったのか?」がわかるわけではない。
●もしネット上で誹謗中傷されたなら
「2ちゃんねる掲示板」を例に解説しよう。例えば、同掲示板で、自分に関することについて、「明らかに名誉を毀損する内容」などを含んだ書き込みがなされていたとする。
この場合、まず、その書き込み内容をプリントアウト、もしくは写真撮影するなどして証拠保全し、刑事事件としての対応を望むなら警察署の刑事課へ行く。民事事件としての対応ならば弁護士などに相談、民事裁判で書き込み者の責任を追及することになる。
●警察が動きにくい理由とは?
しかし、現実的にはインターネット上での誹謗中傷事案で、警察はなかなか動いてくれない。憲法で許されている「表現の自由」との関係もあるからだ。また刑法230条の2(名誉毀損)の規定、「その目的が専ら公益を図ることになったと認める場合に、事実の真否を判断し、真実であるとの証明があったときはこれを罰しない」もある。公益性を訴えるものかもしれない書き込みには、警察といえども検挙には二の足を踏む。
加えて、刑法での名誉毀損罪は、被害者が告訴しない限り、公訴を提起できない親告罪だ。警察からみれば、この被害者の一方的な言い分を鵜呑みにして捜査を行うことになりかねず、慎重に動かざるを得ない。
事実、何人かの警察官の話を総合すると「世間一般でいう悪口、悪意を持った噂程度では警察は動けない。事件性がなければ難しい」と話す。では、インターネット上での誹謗中傷事案で、警察が動く境目はどこなのだろうか。
●警察が動いてくれるネット上での誹謗中傷の言葉
「ネット上である人物について『殺人犯』と書き込みがなされ、書き込まれた人物が刑事告訴をしたならば、警察は刑事捜査に踏み切る可能性は高い」(インターネット犯罪を担当する警察官)
タレントのスマイリーキクチさんが、女子高生コンクリート詰め殺人事件に関与しているかのような噂がネット上で拡散したケースが、これに該当する(中傷犯はすでに書類送検され、スマイリーさんの名誉は回復されている)。
また、ある一般人会社員男性も、とあるネット掲示板で「ミャンマーのジャーナリスト殺害事件に関与している」「元オウム信者」という事実ではない書き込みがなされ、刑事告訴し、警察が犯人を特定したというケースもある。
だが、スマイリーキクチ事件で検挙された中傷犯は、名誉毀損罪や脅迫罪で書類送検。この一般人会社員男性に至っては、中傷犯がまだ学生だったということもあり、警察から学校に通報、学内での指導徹底を願って事件を収束させている。本人の将来を考えての措置である。刑法上の名誉毀損で実刑となることは、大阪の交通事故で亡くなった高校生の両親をネット上で誹謗中傷したケースがあるが、極めてまれな事案といえよう。
●悪口、男女問題の類いでは警察は動けない?
他方、刑事告訴そのものが受け付けられないのが「単なる悪口」「男女間のスキャンダル」の類いだ。これは「井戸端会議的な内容の書き込みに、警察、すなわち国家が踏み込み、かつ罪に問えるのかという問題を孕む」(前出の警察官)ためである。
これらの書き込みで俎上に載せられた当事者は、警察では告訴、もしくは被害届すら受理されないことが多い。
「個人が自らについて書き込まれた内容をいちいち告訴して警察が動くというのも、現実としてどうなのかと思う」(同)