アップルのスマートフォン「iPhone」を構成する部品のうち、日本企業が提供する部品の割合が減少傾向にある。11月21日付の日本経済新聞記事『iPhone12分解してみた 韓国勢部品シェア躍進、日本と差』によると、iPhone 12における日本製部品のシェアは、2019年9月20日発売のiPhone 11との比較で0.6ポイント低下し、13.2%になったのだという。また、これまでのジャパンディスプレイ製の液晶から、韓国サムスン電子製の有機ELパネルにディスプレイが移行するなど、韓国企業のシェアが高まっているとも指摘されている。
かつてはアップル製品には日本製部品が多く使われているとされていたが、なぜ最新型iPhoneではそのシェアが低下したのか。楽天証券経済研究所のチーフアナリストで、電子部品業界に詳しい今中能夫氏に話を聞いた。
アップルの“日本企業離れ”はなぜ起こっているのか?
かつて日本企業の部品がiPhoneに多く採用されていた理由は、アップルのCEOが変わったことによるiPhoneの性格の変化に関係しているという。
「スティーブ・ジョブズ氏が存命の頃のアップルは、どこにでもあるような部品を組み合わせておもしろい商品をつくるというコンセプトを掲げていて、Macintosh(マッキントッシュ)やiPhoneもそれに基づいて生み出されました。
それが現在のCEOであるティム・クック氏の就任後は一転し、半導体やCPU、ディスプレイ、カメラなどありとあらゆる部品に最先端技術を詰め込めるだけ詰め込むという方針に変わったのです。
アップルが高級な先端部品にこだわるようになったことで、村田製作所やTDK、アルプスアルパイン、太陽誘電など、日本企業の電子部品が多く使われるようになりました。iPhone 5sやiPhone 6でiPhoneシリーズが急成長した6、7年前は、まさに日本の電子部品企業の独壇場でしたね」(今中氏)
村田製作所は電圧の安定やノイズ除去を行うチップ積層セラミックコンデンサや電波を選別するフィルターが、TDKは高性能・大容量の電池がiPhone 12に採用されている模様であり、今もその技術力を発揮している。
そんな日本企業の部品が現在では1割強のシェアに落ちてしまっている要因としては、実は意外な事実があるという。
「日本の電子部品を扱う企業の技術力や競争力が低下したというわけではなく、最大の要因はiPhone自体の低調にあります。
かつてiPhoneは最先端技術を惜しみなく採用していたので、当然単価も上がっていったのですが、性能の向上が著しかったため販売台数もドンドン増加していきました。ところが、3年ほど前に発売したiPhone Xなどの価格の高騰が著しくなったことで、販売台数が伸び悩むようになったのです。iPhone Xの256GBモデルは約14万円もしましたからね。
それを受けて、アップルは相対的に安い部品を採用することでiPhoneの価格を下げるようになったのです。去年発売されたiPhone 11の一番リーズナブルなモデルは7万円台で話題となっていました。その結果として技術力が向上している韓国や台湾の部品のシェアが拡大し、反対に日本製部品のシェアは落ちていったと思われるのです」(今中氏)
電子部品を扱う企業がアップルと取引するメリットとリスク
iPhoneで使用される日本製部品の割合は落ちたが、これは日本の電子部品を扱う企業の収益悪化を意味しているわけではないと今中氏は続ける。
「アップルへの部品の納品量は年に1回の入札で決定するという仕組みになっています。そのため業界内で圧倒的に高いシェアを誇る電子部品でなければ、ある年度では入札で受かっても翌年度は発注がないということも起こり得るのです。
日本の電子部品会社の多くは、iPhoneが低迷している最中に台頭したXiaomi(シャオミ)やOPPO(オッポ)など、中華系スマホメーカーと取引するようになりました。それらの会社は顧客層が拡大するにつれ、アップルに対しても採算重視の姿勢を持つことができるようになったため、部品の採算によってはアップルの入札に参加しない、あるいは少ない数量を納品するつもりで参加する会社も出てきています。完全にアップル離れしたわけではないですし、依然としてアップルは大事な納品先ではあるのでしょうが、かつてのようにアップルだけに依存しているような状況ではなくなっているということです。
ちなみに、中堅以下の電子部品企業で納品量の不安定さに耐えられない会社のなかには、あえてアップルと取引をしないところもありますが、結局のところそういった会社は成長していないですね」(今中氏)
数年前と比較するとほかのスマホメーカーに対する優位性が低下しているアップルだが、アップルとの取引は電子部品を扱う会社にとっては今でも重要な意味があるのだという。
「iPhoneは価格を下げたので、どの機種にも世界最高水準の部品を数多く使うことはしなくなっていると思いますが、アップルは可能な限り高性能化しようとしているため、使用する電子部品もできるだけ高性能なものを求めています。また、ほかのスマホメーカーが使い道を見いだせていないような新しい部品も、アップルは納得さえすれば適正な価格で採用しているのです。村田製作所のメトロサークという、折り曲げることができる超薄型基板がその代表的な例でしょう。
一方、中華系スマホメーカーにとっては、最先端を追求してブランド力が高いイメージがあるアップルは今も憧れの存在です。アップルに部品を納入している企業の電子部品もブランドと見なされるので、アップルと取引があることはアップルからの収益だけでなく、その実績によって新たな取引先を開拓できるメリットもあります。それと今回のiPhone12シリーズは販売好調が伝えられています。またまだiPhoneは建在と言っていいでしょう。
ですから、かつてのようにアップルだけに日本の電子部品企業が集中するということはなくなってきていますが、依然としてそういった会社にとってアップルの存在は大きいというわけです」(今中氏)
日本の電子部品を扱う企業の最先端技術がアップルに評価され、ビジネスの可能性を開くこともある。今後も日本の電子部品を扱う企業が新たな商機を得るために、自慢の技術力を磨き上げることは変わりないだろう。
(文=佐久間翔大/A4studio)