楽天モバイル、ドコモら大幅値下げで窮地…「圏外」多発も深刻、与党へ必死のロビー活動
楽天の携帯電話事業は今、窮地に陥っている。菅義偉政権下での携帯料金値下げ圧力に、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの大手3社が軒並み屈した影響で、従来の割安さを打ち出す戦略が通用しなくなったためだ。
「値下げの第四極」となることを前提に菅氏が官房長官時代に新規参入させたものの、首相になった途端に実績づくりに焦り方針転換した結果、楽天はハシゴを外された。楽天は少しでも挽回を図ろうと、三木谷浩史会長兼社長が携帯電話の通信に最も適した周波数帯「プラチナバンド」の割り当てについて、自民党、公明党へのロビイングを強化しているという。
KDDIとの乗り入れ一部停止でクレーム激増
楽天モバイルは現在、データ通信量無制限で月額2980円という今年春の発表時点では割安な料金プランを提示し、割引なしでは月額8000円程度の大手3社からの顧客獲得を図った。しかし、菅政権が誕生すると、菅首相と武田良太総務相の「恫喝コンビ」による尋常ではない圧力で、大手3社が利用者の大部分を占めるメインブランドの値下げで、楽天と同程度の料金プランを提示する流れは決定的となっている。大手が8000円だから楽天に乗り換えようという気にもなったが、5000円程度にまで下がるなら、乗り換える動機はない。前提がまったく変わってしまったというわけだ。
しかも、楽天は携帯事業者としては致命的な通信品質の劣化が、ここにきて利用者からの信用をガタ落ちさせている。自社回線外部でのKDDIとのローミング(相互乗り入れ)を10月22日から東京都、大阪府、奈良県の一部地域で停止し始めたことが致命的となり、ネット上では「使えない」などのクレームが激増した。打ち切り範囲は順次拡大する計画で、東京都では離島など一部を除き、来年3月末で終了するという。
楽天とKDDIとの契約では、2026年3月31日までに各都道府県ごとに人口カバー率70%を超えた段階で両社で協議し、継続・終了を決めるとされており、今回の打ち切り開始も「東京、大阪、奈良ではローミング代をケチった楽天が早々に打ち切った」(前出記者)と見られる。楽天は「携帯基地局建設で地権者に営業をかけるために、全グループから業種関係なく人を集めるくらい全力を傾けている」(全国紙経済部記者)とのことだが、楽天に割り振られた1.7ギガヘルツ帯は屋内への浸透率はそれほど高くなく、「銀座のど真ん中でも室内では圏外になる」(利用者の30代男性)といったあり得ない事態も発生している。
菅氏、楽天に情けのプラチナバンド割り当て
料金値下げという外圧に加え、通信品質低下に悩まされる楽天にとって、数少ない朗報が総務省によるプラチナバンドの割り当て見直しだ。同省は10月27日に発表した競争促進策「アクション・プラン」の中で、「今後の電波の割当て(特定基地局の開設計画の認定、変更認定等)の際には、特定基地局の利用の促進の観点から、申請者の対応状況等を踏まえて審査し、条件として付すとともに、その実施状況の検証を着実に進めていく」との文言が入っているが、これは協力への圧力だ。キッチリ従わない限り、次世代通信規格「5G」用などの新たな周波数の割り当て認めないということだが、ここに菅首相の楽天への優遇が見られるという。全国紙政治部記者の解説。
「これは大手3社への圧力もあるのですが、本質は楽天へのプラチナバンドの再配分ですね。菅首相の『値下げでは約束を破っちゃったから、これで勘弁してね』という配慮とみられ、基本的には出来レースとされています。ただ、ここで何としてもポイントを稼がないといよいよヤバイとみた楽天の三木谷氏は、自民党だけでなく、公明党にもロビイングをここ3カ月くらいの間に強化しています。特に公明党は低所得者の支持者も多く、携帯料金値下げについては関心が高い。三木谷氏は携帯業界では割安路線を崩すことはないでしょうから、ここに食い込んでプラチナバンド割り当てだけでなく、各種補助金までもぎとろうという魂胆です」
楽天が携帯事業に進出したのはネット通販世界最大手のアマゾンと競争で、本業の楽天市場だけではジリ貧になると判断した背景がある。スマホ決済サービスに乗り出すことで、顧客のデータなど獲得し、マーケティングなどに役立てようという狙いだった。菅首相の方針転換で一気に窮地に追い込まれた楽天だが、悪あがきが奏功するかもしれず、注視が必要になりそうだ。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)