8月下旬、ある一般人によるTwitterのツイートには、読んだ者たちの背筋をひんやりとさせる恐怖体験が綴られていた。
それは、スマホを紛失した若い女性(ツイート主)が、「iPhoneを探す」機能によって示される位置情報を頼りに自分のスマホを追って行くと、いつの間にかひと気のない場所に誘い込まれていたというものだった。不幸中の幸いで、ツイート主は直接的な被害を受けることはなかったようだが、スマホを拾った何者かが意図的に誘い出していた可能性が高いというのだ。その何者かが、持ち主が若い女性だということを知ったうえで行っていたとしたら、婦女暴行や拉致といった危険性もあっただろう。
「iPhoneを探す」とは、文字通りiPhoneを紛失したときに他のデバイスから自分のアカウントにログインすると、失くした端末が今どこにあるのかを位置情報から割り出せるという機能だ。本来ならば非常に便利なこの機能が逆手に取られ、悪用されていた可能性が高いということで、そのツイートを見た人々は恐怖したのである。
では、いざというときのためにどういったリスクを想定し、どう対応すべきなのだろうか。今回は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)などの著書があるITジャーナリストで、スマホ安全アドバイザーとしても活動している鈴木朋子氏に、「iPhoneを探す」機能を使う際の注意点やスマホを紛失したらどのような行動をすればいいのかを解説してもらった。
「iPhoneを探す」機能が危険なのではない
スマホ安全アドバイザーとして活動している鈴木氏のもとには、今回のTwitter投稿のケースを想起させる事例の相談がいくつかあったという。
「私の知人女性の話ですが、iPhoneを紛失した際に『iPhoneを探す』で位置情報を割り出してみると、あるアパートを指していたそうなんです。しかも、電源もオフにされないまま翌日もその住所に留まり続けていた。普通なら交番に届けるといった行動に出るはずが、一向に拾ったスマホを手放さないというのは、何か裏がありそうで怖いですよね。
位置情報がアパートやマンションなどを指していた場合はなおさらです。一人で取りに行き、密室で見ず知らずの他人と対面することの危険性は言わずもがなでしょう。ですからこういう場合は位置情報がわかっていても、直接受け取りに行ってはいけません。
また、男性ならば安心というわけでもありません。男性でも紛失したスマホを拾った人に、直接取りに来るように言われたという話を聞いたことがあります。もしその言葉通り取りに取りに行っていたら、『拾ってやったんだから』などという理由で強引に金銭を要求される危険性もありますよね。ですから女性でも男性でも、基本的には交番に届けておいてくださいと伝えるべきでしょう。
『iPhoneを探す』機能は自分のiPhoneがどこにあるのか詳細にわかるので、とても便利な機能です。ですから今回のTwitterの事例で勘違いしてはいけないのは、『iPhoneを探す』機能が危険なのではなく、交番などの施設に預けられていないスマホを、位置情報を基に一人で直接取りに行くという行為が危険だということです」(鈴木氏)
紛失する前にできること・やっておくべきこと
では、スマホを紛失してしまった際、さらなる大きなトラブルに巻き込まれないために、事前に何をしておくべきなのだろうか。鈴木氏は「スマホのケースやホーム画面から自分の情報がわかるようになっている状態は危険」だと警鐘を鳴らす。
「スマホのケースのデザインによっては男性のものなのか女性のものなのか、だいたいわかってしまいますよね。そして女性のものだとわかったら、何歳くらいかな? と勝手に推測される可能性もあります。
それだけでなくポケット付きのスマホケースにクレジットカードや電子マネーカード、診察券などを入れていると、個人を特定されかねないのでさらに危険です。ですからスマホケースは、男女を問わないようなシンプルなデザインにすることや、ポケット付きのものでも個人情報がわかるカードなどは入れないようにしたほうがいいでしょう。
また、ホーム画面に自分が写っている写真を設定しておくと、自分の性別や顔を知られてしまいますから、落としたときのリスクがかなり高まってしまいます」(鈴木氏)
当然だが、解除しないと操作できないようにロックをかけておくといった対策を怠ってはいけないという。
「スマホには必ず、厳重なロックをしておきましょう。実は、スマホをロックしていないという人や、解除のパスコードを“1111”などの単純なものに設定している人がいまだに多いんです。それでは紛失したときに、中身もすべて見られてしまう可能性があります。パスコードは可能な限り複雑なものにし、もちろん指紋認証機能や顔認証機能がある場合はマストで設定しましょう」(鈴木氏)
紛失後は「紛失モード」、諦める場合は初期化
では、スマホを紛失してしまった場合、具体的にどういった行動を取るべきなのだろうか。
「iPhoneユーザーの場合、まず誰かのiPhoneやパソコンから『iPhoneを探す』にログインし、設定を『紛失モード』に変更しましょう。『紛失モード』にすると、なくしたスマホをリモートでロックできるので、個人情報を抜き取られる心配が各段に下がります。
また、『紛失モード』にすると自分のiPhoneの画面上に、『このiPhoneは持ち主が紛失したものです。見つけた方はご連絡お願いします』といったメッセージと電話番号を表示することができます。非常に便利な機能ですが、ここでも注意が必要になってきます。電話番号という個人情報が知られてしまうことになるので、自宅などの電話番号を表示してしまうのは危険です。ですから女性の場合は、知人の男性に頼むなどして、その男性の電話番号に設定するといった対応をしたほうが安心でしょう。すぐに頼れる知人がいない場合は、近所の交番に相談し、交番の電話番号を設定するというのも手かもしれません。
ちなみに紛失した際、誰かに拾われているのではないかと思って、紛失したスマホの番号に電話をかけるという人もいると思いますが、自ら電話をかけるよりもこの『紛失モード』に頼ったほうが安全でしょう。電話を掛けるとこちらの声で性別やだいたいの年齢がバレてしまいますからね。
いずれにしても、スマホよりも自分の身の安全のほうが大事でしょうから、最悪の場合はスマホを取り戻すことは諦めるという決断をするのも、英断だと思います」(鈴木氏)
確かにスマホも大事だが、自分の身の安全が第一だろう。ではスマホ奪回を諦めざるをえない場合、すべきこととは?
「iPhoneはリモートでデータを初期化できますから、取り戻すのを諦めるときは初期化を必ずしておきましょう。すぐに初期化してデータをすべて消去しておけば、スマホ内のデータを悪用される心配はなくなりますからね 。もちろん、データのバックアップを普段から取っておくことも大切です。
また、事前にアップルの『Apple Care』の『盗難・紛失プラン』や、各キャリアが提供している保険に加入しておけば、スマホを紛失した際に交換機が支給される場合があります。よくスマホを失くしてしまうという方は、一度検討してみてもいいかもしれませんね」(鈴木氏)
「iPhoneを探す」機能は非常に便利ではあるが、その機能の活用方法を誤ると身に危険が及ぶこともある。スマホを紛失した際は、どういった事態が起こりうるか充分に想定したうえで、慎重な行動をしていただきたい。
(取材・文/A4studio)