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松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」

Vプリカ支払い、電話番号を要求…活況の恋活・婚活アプリ、巧妙な詐欺の被害多発

文=松岡久蔵/ジャーナリスト
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※イメージ画像です(「gettyimages」より)

 春は出会いの季節である。新型コロナウイルス感染拡大で、出会い系アプリによる恋活、婚活も従来より格段に市民権を得た。ところが、その流れにつけ込む詐欺が横行し、巧妙な手口で男性をだまし金銭を巻き上げる被害が多発しているという。

婚活アプリ最大手で詐欺アカウントが跋扈

「まさか最大手の恋活・婚活アプリで詐欺アカウントが入り込んでいるなんて思いませんでした」――。こう肩を落とすのは、国内最大級の恋活・婚活マッチングアプリ「Pairs(ペアーズ)」を利用して詐欺被害にあった会社員男性の八木裕さん(仮名、33)。今後の被害防止につながればと筆者に情報提供してくれた。以下、具体的な手口についてみていこう。

 ペアーズは2012年にサービスを開始し、今や1000万⼈以上のユーザーがいるとされる。自分の写真やプロフィール、年収などを登録し、相手の異性とマッチングすればメッセージ交換でき、デートなどができるという仕組みだ。八木さんも昨年から登録し、婚活にいそしんでいたという。以下は八木氏の弁。

「ある日、アプリを利用していたところ、22歳の彩子という女性のプロフィールが目に留まりました。台湾からの留学生と書いてあり、LINEのIDが直接書いてありました。写真がすごく可愛かったので、好意を示す『いいね!』ボタンを押した後、待ちきれなくなって、そのIDを直接登録したのです。そうしたら、10分くらいでLINEで、『コロナで台湾に帰るに帰れないし、アルバイトもない。何とか援助してくださいませんか』という旨の片言の日本語で書かれたメッセージが来た。その後、水着や下着姿の写真も送ってくるようになり、私もついつい会うことに応じ、彼女が送ってきた住所のマンションの前まで行ってしまった」

足の付かないネット専用プリペイドカードでの支払いと電話番号を要求

 その後、途端に彩子は詐欺師の本性を現す。マンションについた八木さんがLINEでメッセージを送ると、「現金での支払いは逮捕、強制送還か200万円の罰金を払わないといけない。私の友達もそれで逮捕されたから、安心のためにネット専用プリペイドカード『Vプリカ』で支払ってほしい」との返事。このVプリカはコンビニなどで購入でき、ネットショッピングでのみ利用できるもの。身分証なしでも手軽に購入できるのがメリットだが、詐欺犯が現金をロンダリングする手段として使用するなど近年は犯罪利用が問題視されている。

 この彩子の提案を八木さんも疑問に思い、とにかく直接会ってほしいと要望したが、「私はただの女子大生だから怖い」と頑なに会おうとせず、「とにかく1万円を払ってくれれば信頼する」とつれない返事。以下は再び八木さん。

「まあ、1万円くらいならいいかと軽い気持ちで購入し、Vプリカの番号を写メで送りました。この番号を会員サイトに打ち込めば、購入した金額分がネットで使用できるのですが、その後で彼女は『警察とか友達に暴力を振るった人じゃないか確認したいから、電話番号を教えてほしい』と言ってきた。さすがに電話番号は怖いので断ったところ、『私の友達はおかしな客が暴れて大怪我をした。犯人は捕まっていない。電話番号が無理なら保証金2万円を先に払ってもらって、後から部屋に来た時に現金で返す』と言ってきた。現金が手元にあることを示すために1万円札2枚が写った写真を送ってくる念の入りようです。さすがにこれは私もおかしいと思い、その日はもう帰ることにしました」

 ここまでなら、八木さんが1万円をだまし取られただけだが、被害はこれで済まなかったという。

マメなメッセージとエロ写真で巧妙なアプローチ

 モヤモヤした気分を抱えながら、一日が経った八木さんに彩子から再びメッセージが来た。

「昨日は驚かせちゃったかもしれない。ごめんなさい。でも、私の置かれた状況も考えてほしいの。せっかく日本に来たのにお金もない。誰も守ってくれず、もし客から怪我をさせられたら泣き寝入り。保証金は必ず返すから、会いに来てくれない?」

 このメッセージと同時に、今撮影したとされる下着姿の写真も送られてきて、その後も熱心な片言のメッセージが続いたという。

「たかだか2万円にここまで手間をかけるものだろうか?」――。八木さんは迷ったが、もう一度指定されたマンションへ赴いた。そして近くのコンビニで2万円分のVプリカを購入し、彩子にカード番号の写メを送信した。彩子の言う通りにしたわけだが、そこは詐欺師、前言撤回したという。

「私のバックは⼭⼝組と福建マフィア」と脅迫

「『やっぱり電話番号を教えてほしい』と言い始めて、さらに保証金3万円を要求してきたのです。さすがに頭にきて文句を言ってやろうとLINE電話をしましたが出ず、『なんで言うこと聞いてくれないの?』などという若い女性の音声データのみがこちらに送信されてきました。その後はメッセージで『今までの3万円を全額返さないと警察に通報する』『返さない、3万円追加しろ』という押し問答が続いて、どちらもしびれを切らしてきたころ、彩子がいきなり日本語、中国語、英語で同じ内容のメッセ―ジを送りつけてきたのです」

 いかなるメッセージだったのか。要旨は以下の通り。

「もし通報したら、警察や裁判官にたくさんの知り合いがいる『社長』が違法買春であなたを警察に逮捕させ、数百万円の罰金を払わせることになる。あなたの家族や知り合いにも連絡が行く。社長はこのあたりの顔だ。山口組や福建マフィアみたいな強大な勢力を持っている。もし客とトラブルになった場合、山口組のメンバーが駆けつけて、手足を切り落とす。あなたもそうなりたいか?」

 まるで漫画のような脅し文句がアホらしくなった八木さんは彩子をLINEでブロックした後、こりごりしてその場を去ったという。

中華系の犯罪集団がテンプレを用意してカモを待つ

 八木さんに非があるのは間違いないが、今回の詐欺集団はカモを巧みにはめる手口をシステマチックに構築している点が特徴といえる。

 まず、ペアーズはGmailなどのフリーメールでアカウントを容易に開設できる。公式ホームページによると、「お相手と交流する前に本人確認が必須」とされているが、逆に言えば、マッチングしメッセージをやり取りする段階ではそれは必要なく、LINEのID交換自体はできるということだ。このため、八木さんのケースのようにプロフィールに直接LINEのIDを書き込むなど、悪意のあるアカウントが下心のある男性を釣ることは可能となる。

 八木さんからの情報提供から、筆者もペアーズだけでなく複数の出会い系アプリに登録し調査したところ、その多くに同様の詐欺アカウントが確認できた。特徴がいくつか浮かび上がったのでご紹介する。(1)年齢が20~23歳、(2)写真がモデルのような美人、(3)自己紹介が片言の日本語で書かれている、(4)出身が台湾かシンガポール、(5)LINEのIDが直接プロフィールに記載されている、(6)LINEのIDが英数字で4桁と非常に短い。アプリ当局もクレームが増えて怪しいアカウントを停止するなどの対応をしているためか、日本人に外注したと思われるほど流ちょうな日本語の自己紹介文を掲載したり、写真の中にさりげなくLINEのIDを仕込んでいたりするなど、さまざまな手法で監視の眼をかいくぐろうとする動きもみられる。組織犯罪に詳しいジャーナリストはこう解説する。

「話を聞いた限り、中国か台湾の系統の犯罪組織であると推測されます。まったく日本語がわからないとカモを誘導できないので、両国からの留学生や留学生崩れをプロ集団が雇い入れて組織的な犯罪行為をしている可能性が高い。英語と日本語のテンプレートを持っていたということですから、片言の日本語で通じない部分は英語と混ぜてコミュニケーションをとっていたのでしょう。あらかじめパターンに応じたテンプレを用意している点で、それなりの組織とみて間違いない。オレオレ詐欺のようなマニュアルもあったかもしれません。

 彼らの⼿法は、まず出会い系アプリに登録し、LINEにカモを誘導するまでがステップ1。そこからはエロ写真とかで男の下心をくすぐって、住所を送れば信用する男も出てくるため、そこで会う約束をするのがステップ2。Vプリカのような足が付きにくいネット専用プリペイドカードを買わせて番号を送らせるのがステップ3。あとはできるだけ懇切丁寧にメッセージを送って1円でも多くプリペイドカードを買わせるのがステップ4です。

 詐欺犯罪は基本的にカモがどう動くかを予想して仕組みをつくります。向こうの口車に一度乗った時点で逆転することはほとんど不可能なので、まず関わらない。関わってしまった場合は傷が広がらないうちに一刻も早く逃げるべきです。今回のケースでは八木さんは電話番号を教えませんでしたが、教えていたら脅し役の人間が『違法買春しようとした』などと直接電話で脅迫してくる可能性もあります。教えた電話番号そのものが悪用されることも考えられます。

 彩子が送ってきた山口組云々の馬鹿馬鹿しいメッセージは、指定暴力団の名前を出して脅した時点で脅迫罪や強要罪などが成立するので一向に気にしないでいいのですが、気の弱い人の場合、数万円では済まない額を脅し取られてもおかしくない」

 今回の八木さんのケースは典型的だが、こういう違法買春にからめた組織犯罪の被害者は自分にも負い目があるため、警察に通報しにくく表に出にくい。社会的にも自業自得と言われたらそれで終わりで、ただカネを騙しとられて泣き寝⼊りするしかない。後悔先に立たず、である。

 多忙で時間のない現代人にとって、出会い系アプリは恋人や結婚相手を探す貴重な手段だ。しかし、犯罪は常に社会に適応し、心のスキを狙っていることも忘れてはいけない。利用者は怪しいアカウントは無視し、アプリ当局側も安全・安心な出会いの場を提供できるよう監視を強化していただきたいものだ。

(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)

松岡久蔵/ジャーナリスト

松岡久蔵/ジャーナリスト

 記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。
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Twitter:@kyuzo_matsuoka

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