「日本のスマホ代は高すぎる!」と女優の米倉涼子が叫ぶCMでお馴染みの楽天モバイル。現在、楽天モバイルは「Rakuten UN-LIMIT VI」という低価格プランを提供しているが、ここにきて熱い注目を集めている。なぜなら、「1年間無料キャンペーン」の申込みの締切が迫っているからだ。締切を前に契約申し込みが急増しているという報道もある。
このプラン、「1年無料で使えるから」と飛びついていいのだろうか。結論からいえば、プランの内容が魅力的かどうかは人によるが、ほとんどの人にとって、このキャンペーンに乗っておいて“損はない”。
早速、いったいどんな内容のプランなのかを振り返っておこう。
まず、基本的な料金は2980円(税抜、以下同)だ。段階制であるが、データ容量無制限で使うには、この金額になる。同じく2000円代のプランとしてNTTドコモの「ahamo」などがあるが、大手キャリアの格安プランがデータ容量20GBなどと制限があるなか、楽天モバイルはデータ容量は無制限。仮に100GB使っても定額だ。その昔「パケ・ホーダイ」などのプランが人気を博したが、同じ要領である。
また、「Rakuten Link」アプリ経由という条件付きではあるが、国内通話はかけ放題となる。
破格で提供できるワケ
データ容量無制限で、国内通話もかけ放題。これが2980円なので、破格だ。しかし、この安さには理由がある。まず、データ容量が無制限になるのは「楽天回線エリア」内での通信に限られる。そして、このエリアは全国をカバーできているわけではない。さすがに都心部や一定規模の都市には対応しているが、首都圏であれば栃木市や藤沢市の一部などはエリア外。
楽天回線エリア外での利用は、「パートナー回線」に切り替わり、データ容量無制限ではなくなる。パートナー回線でのデータ利用はできるが、5GBを超えると速度制限がかかってしまう。具体的には1MBpsまで落ちてしまう。使えないわけではないが、YouTubeの高画質動画の視聴はかなり厳しい。普段の4G回線の速度に慣れていると、相当なストレスを感じてしまうだろう。
今後、楽天回線エリアの拡大は予定されているが、以下のサイトから自宅や職場などがエリアに含まれているか確認は必要だ。
【サービスエリア】
https://network.mobile.rakuten.co.jp/area/
加えて、楽天が提供する回線には、エリアだけでなく周波数にも懸念がある。「プラチナバンド」という名前を聞いたことがある人はいるだろう。周波数は帯域によって特徴があり、低くなると障害物の裏にも回り込むのでつながりやすくなる。ドコモやau(KDDI)、ソフトバンクは、つながりやすいプラチナバンドを有しているが、楽天にはそれがないのだ。
ソフトバンクがボーダフォンの日本法人を買収し、モバイル事業へ新規参入した頃を思い出してほしい。当時のソフトバンクには「つながりづらい」というイメージがあった。あれはイメージではなく、本当につながりづらかった。それもそのはず、当時のソフトバンクはプラチナバンドを認可されていなかった。結局、ソフトバンクはプラチナバンドを獲得するまで「つながりづらさ」の問題を抱えることになる。実は、あの時のソフトバンクと楽天は同じ状況なのだ。「大手キャリアと同じでしょ」とイメージしていると、思わぬストレスを感じるリスクがある。
ちなみに、「Rakuten UN-LIMIT VI」は追加料金なしで5G回線も利用できる。だが、ただでさえ楽天回線エリアが限られているなかで、5Gエリアはもっと限定的だ。
【5Gサービスエリア】
https://network.mobile.rakuten.co.jp/area/5g_area/?l-id=area_5g-area
都内でも楽天が本社を構える二子玉川駅周辺など、ごくごく一部だ。「5Gも使える」のは事実だが、電波を拾えたらラッキーくらいに思っておいたほうがいい。
「通話し放題」は条件付きとはいえ、十分お得
このプランのもう一つの目玉が「通話かけ放題」ということ。例えば、ドコモのahamoは「5分まで無料」であるが、かけ放題にするには1100円(税込)の追加料金が発生する。その点、楽天は追加料金なしで、かけ放題。
こんな破格のサービスは、「Rakuten Link」という専用アプリを使うことで実現している。これはLINE通話のように、ネット回線を通じて行う通話だ。
こう聞くと「じゃあ、今までのようにLINEを使って通話すればいい」と楽天モバイルには旨味がないように思える。しかし、Rakuten Linkの特徴は、通常の電話と同じように使えること。ネット回線経由ではあるが、電話番号を使って通話することができる。LINE通話の場合、「LINE Out」という固定電話と通話できるサービスもあるが、広告を見たり通話時間が限られるなど制限が多い。その点、Rakuten Linkは普段の電話の要領で使うことができる。
「0180」や「0570」から始まる番号へは別途料金がかかってしまうが、基本的な通話に関しては問題なく使える。「050」から始まる番号にも対応しているので、例えば「食べログ」の電話予約などでも問題なく使えるのだ。
というわけで、ここまでの内容を見ると、生活圏が楽天エリア内に含まれる人や、頻繁に長電話する人であれば、十分に恩恵を受けることができるだろう。格安SIMといわれるサービスを使っている人が楽天モバイルに乗り換えるのであれば、オトク感は増していく。
だが、気をつけないといけないのは、ドコモなど大手キャリアから乗り換えるとストレスを感じてしまうかもしれない。ネットワークの品質が気になる人などは、同じような価格帯のahamoなどをオススメする。
多少品質は劣っても「タダ」なのは相当デカい!
……と、このように説明すると「だったらやめておこう」と思う人もいるだろう。だが待ってほしい。このサービスは、今なら無料で提供されている。1年間と期間限定であるが、解約料などもかからない。とりあえず加入しておいて、無料期間の間に解約するのも一手だ。
「とりあえず入っておいても、使わないと意味がないのでは?」と思う人もいるだろう。また、品質が劣るなかで使うか微妙という人もいるはずだ。だが、このプランは、ドコモなどの大手キャリアを愛用している人には、“サブ”としてとりあえず持っておくのがいい。
特に、現在データ容量の無制限プランを使っていない人の場合、いわゆる「パケ死」になったときに楽天モバイルに切り替えるのもいい。ahamoやauの「povo」のデータ容量は20GB。また、自宅にWi-Fi環境がある場合、大手キャリアのデータ容量無制限プランを高い料金を払ってまで使う人は少ない。データ容量が限られるなかで、超えたときのサブとして使うのは悪くない。
また、楽天モバイルのこのプランは端末を購入しなくていい。プランだけ契約することが可能だ。さらに、『eSIM』にも対応しているため、物理的なチップを抜き差しする必要もない。最近は「デュアルSIM」という、1台のスマホに2つの回線を扱うことができる機能が普及している。対応機種は限られるが、iPhoneならiPhone XSやiPhone XR 以降の機種で対応。このデュアルSIMが便利なのは、設定から気軽にSIMを切り替えることができる点だ。デュアルSIMによって、楽天モバイルをサブとして使いやすくなっている。
リモートワーカーなら「タダでスマホを使う」のも夢ではない
無料キャンペーンは1年で終了するが、1年後もデータ容量が1GBまでは無料で使うことができる。データ容量を無制限で使おうと思うと2980円かかってしまうが、この値段はパケットの利用量に応じて変わっていく。3GBまでなら980円、そして1GBまでだと0円だ。国内通話かけ放題サービスも、プラン内に含まれている。
すると、1年の無料期間終了後も、データ容量を1GBまでに抑えれば、無料で使うことができる。つまり、1年後も“サブ”として持っておいて損はない。
また、考えようによっては、リモートワークがメインの人にとっては、もっとも安いプランになるかもしれない。自宅にWi-Fi環境があれば、データ容量の消費もかなり限られる。実際に、コロナ禍の外出自粛生活中にはほとんどパケット回線を使わなかった人も多いはず。筆者の場合、1度目の緊急事態宣言の間は1GB程度しか使わなかった。
各々のライフスタイルによるが、外出先ではデータ容量を消費しない人、あるいは外出先ではWi-Fiを駆使してデータ通信する人であれば、楽天モバイルをメインにすることで、実質無料で使い続けることも夢ではない。
このあたりのリアルな使い勝手の部分は、1年間無料で使えるうちにいろいろ試してみてもいいだろう。
さて、楽天が発表した2020年12月期の決算によると、本業であるECや金融サービスが好調のなか約1142億円もの最終赤字を計上した。これは楽天モバイルへの多額の投資が要因とされている。実際にモバイル事業の営業赤字は約2269億円だ。基地局整備などの巨額の投資が主な要因だが、モバイル事業からの収益が限られていることも原因の一つだろう。ようは、楽天は採算度外視でモバイルサービスを提供している。それでは商売が立ち行かなくなるイメージもあるが、楽天の狙いは金融サービスなども含めた「楽天経済圏」の規模を大きくすることで、収益を最大化しようとしている。楽天は、将来的にはモバイル事業が「金のなる木になる」と踏んで投資しているわけだが、今は赤字を垂れ流してでも耐える時。
この状況を反対側から見れば、ユーザーはタダでサービスを享受できることになる。プリンターやウォーターサーバー、昔の0円携帯のように、製品自体は格安で提供してインク代や水代、携帯料金で回収するビジネスモデルでもない。
「タダで提供」 まで追い込まれた楽天モバイル
楽天モバイルは、大手キャリアによる低価格プランによって追い打ちをかけられた。楽天モバイルはもともと、ドコモなど大手キャリアから回線を借り受ける「MVNO」であったが、総務省の認可を受け晴れて「MNO」となった。当時は、ドコモやau、ソフトバンクに次ぐ「第4のキャリア」として、価格競争の起爆剤として期待を集めていたのだ。ただし、新規参入組であり、どうしても回線クオリティなどは劣ってしまう。そこで、低価格にすることで、なんとか大手キャリアの牙城に食い込もうとした。
ところが、ahamoやpovoなどの低価格プランを大手キャリアが打ち出してくる。格安SIM顔負けの料金なので、楽天モバイルの低価格プランも魅力が半減してしまう。そこで楽天が起死回生の策として打ち出したのが“無料プラン”だったと思われる。
一般的には「タダより高いものはない」といわれるが、楽天の場合、品質などが劣る以上、タダにしないと、まともに勝負ができないと腹をくくったのだろう。また、しばらくの間はスマホプラン単体では儲からなくても、楽天市場や楽天カードなどと連携することで「楽天経済圏」として利益を上げていくこともできる。このように考えても、やはり「タダだから」と不安に感じる必要もない。
本来の価格である2980円が1年間無料で使えるキャンペーンは、2021年の4月7日をもって終了してしまう。その前に、とりあえず入っておくはオススメだ。使わないなら、無料期間中に解約すればいい。そして、もし1年無料キャンペーンの受付が終了してしまっても、1GBまで無料で使えるので、これをサブとして利用するのも悪くない。
いずれにせよ楽天が、赤字を垂れ流しながらせっかくタダでサービスを提供してくれている。その恩恵を受けない手はない。
(文=加藤純平/ライター)