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松村太郎「米国発ビジネス&ITレポート」

iPadへのPhotoshop提供開始が、衝撃的ニュースとして扱われている理由

文=松村太郎/ITジャーナリスト
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iPadへのPhotoshop提供開始が、衝撃的ニュースとして扱われている理由の画像1iPad pro(「Wikipedia」より/Totie)

 Bloombergは米国時間7月13日、AdobeがPhotoshopをiPad向けに提供することを報じた。

 Adobeはクリエイティブソフトウェア群の業界標準をサブスクリプションモデルへと移行させたCreative Cloudが主力製品となっている一方で、Acrobatを核としたデジタル文書のDocument Cloud、そしてデジタルマーケティングのExperience Cloudと、自社製品を次々とクラウド上での展開に移行させてきた。

 これによって、機械学習やAI(人工知能)に関して、クリエイティブやマーケティングの現場で威力を発揮する高度な専門性を備えたAI「Adobe Sensei」の付加価値を高める戦略を採ってきた。Adobeが取り組んできた2012年以降のクラウドへの移行のなかで、売上高を2倍に成長させ、株価も7倍へと押し上げてきた。

 その一方で、これまでiPad向けのPhotoshop製品としては、フォトレタッチのPhotoshop Fix、画像合成のPhotoshop Mix、スケッチアプリPhotohsop Sketch、簡易版となるPhotoshop Expressと、バラバラにアプリを取り揃えており、iPad向けにデザインされ販売されている他社のアプリにシェアを奪われてきた。AdobeがフルバージョンのPhotoshopをiPad向けに提供することで、モバイルでの画像編集アプリ市場でシェアを獲得する狙いがあるとみられる。

実例となるのがLightroom CC

 Adobeはデスクトップ、モバイルの双方にフルバージョンのPhotoshop CCを提供しようとしているが、その先行事例として上げられるのが、写真現像・編集アプリのLightroom CCだ。その新バージョンでは、Adobeが提供するCreative Cloudを通じて、各デバイス間でデータや編集履歴を同期化し、手元にあるデバイスをすぐにワークフローに取り入れられるようにしている。そのなかにはiPadも含まれる。

 例えば、Windows PCがメイン環境であっても、外出先のiPadに写真を取り込んで、その場の打ち合わせで編集内容を反映させておけば、デスクのPCにもその結果を引き継いで編集を継続できるようになる。イメージとしては、すでにLightroomで実現していることを、新たにPhotoshopで再現しようとしているのだ。クラウドを主体として、マルチプラットフォームに対応させる編集環境を揃え、クリエイターの多様なニーズに応えられるようにする。

 このことはAdobeにとってもメリットがある。Adobeは各アプリに対して、AIであるAdobe Senseiをアシスタントとして活用する仕組みを取り入れようとしている。Adobe Senseiはクリエイターやマーケッターの作業やニーズを理解しているAIで、時間がかかる作業や前後の工程に必要な気づきを利用者に与えてくれる役割を担う。そのため、データがクラウド上にあり、クリエイターの作業履歴がそこに蓄積されていくことは、Adobeにとって大きな競争上の優位性となるのだ。

松村太郎/ITジャーナリスト

松村太郎/ITジャーナリスト

慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、ジャーナリストとして独立。テクノロジーとライフスタイルの関係を追いかける。2011年より8年間、米国カリフォルニア州バークレーに住み、テクノロジーの震源地であるサンフランシスコ・シリコンバレーを現地で取材した。
学校法人信学会 コードアカデミー高等学校

Twitter:@taromatsumura

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