iPadへのPhotoshop提供開始が、衝撃的ニュースとして扱われている理由
Microsoftが奪い取ったクリエイティブのブランド
別の角度から見てみると、近年、AdobeはMicrosoftと非常に親密な関係を築いてきた。Adobeが春に開催するマーケティングイベント、Adobe SUMMITにも、秋に開催するクリエイティブイベントAdobe MAXにも、Microsoftはトップスポンサーとして参画し、特にAdobe MAXでは「クリエイティブといえばMac」というイメージを数年かけて崩すことに成功している。
MicrosoftはAdobe MAXで、発表されたばかりの最新Surfaceシリーズを展示し、クリエイターへのアピールを欠かさない。また、そのSurfaceシリーズなどによってPCにタッチパネルを搭載するトレンドをつくり、AdobeもWindows向け製品のタッチ対応を積極的に進めるかたちで応えた。
特にグラフィックス性能の高いゲーミングPCのトレンドは、ビデオ編集者がWindowsプラットフォームを選択する最大の理由となっており、仮想現実(VR)コンテンツについても、Windows以外の選択肢は長らくあり得なかった。
そうしたクリエイティブ領域へのMicrosoftの進出は、ひとえにAppleのMac軽視の結果でもあるが、2016年からMacへのテコ入れと、iPad ProによるPCの置き換えを狙うAppleは、独自色を強めた復権の方法を探っていたとみられる。
iPadが注目する「クリエイティブ」を生かせ
Appleは2018年3月に、米国で329ドルという廉価版iPadを発売した。教育市場向けの戦略製品ではあるが、iPadのユーザー層を広げたり、新たな用途を見いだす役割も果たしていくことになる。
廉価版iPadは、これまで上位機種のみの機能だったApple Pencil対応も果たした。これにより500ドル程度の投資で、4Kビデオも扱える処理性能を持ち、いまだに業界で評価が高いApple Pencilが利用できるタブレットを手に入れられるようになったのだ。
AppleはiPadを売り込む用途として、クリエイティブを掲げている。iPhone並みの性能を持つカメラと高い処理性能、無料アプリ群によって、ビデオ、オーディオ、写真、スケッチのクリエイティブを学びに取り入れることができる「Everyone Can Create」カリキュラムを、秋から無料で提供する。
iPadがPhotoshopに対応することになれば、AppleはiPadをクリエイティブの道具としてより強くアピールできるようになるし、Adobeが個人や教育向けに手頃なプランを提供することで、教育現場からAdobe Creative Cloudユーザーを青田買いできるようになる。これが、AdobeのiPad版Photoshopの開発が大きなニュースとして取り上げられた背景だ。
今年も10月にAdobeはロサンゼルスでクリエイティブの祭典Adobe MAXを開催する。iPad向けPhotoshopも含めて、より詳しい情報や戦略も明らかになっていくだろう。
(文=松村太郎/ITジャーナリスト)