ソニーの「PlayStation 5」(以下、PS5)の発売から約1年。昨年11月12日に日本やアメリカで発売開始されたが、今なお品薄状態が続いている。
PS5の生産台数自体は1000万台を突破(2021年7月現在)しているが、例えば家電通販サイト「ノジマオンライン」のPS5抽選販売の倍率は約60倍(2021年10月現在)。こういった供給不足は日本だけでなく世界各国でも起きている。
家電量販店などに入荷されても予約抽選販売であったり、その店舗の会員限定の販売であったりと、供給されても即完売というループが続いている印象である。また、そういった品薄状態に加え、発売から1年も経っているのにPS5専用タイトルが少なく、遊べるゲーム自体が多くないといった声も挙がっている。
そこで今回は、雑誌「ゲーム批評」元編集長、NPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)現・名誉理事・事務局長のゲーム教育ジャーナリスト・小野憲史氏に、PS5の現状について解説してもらった。
世界的な半導体不足と転売業者問題が原因か
これまでのゲーム機も発売から数カ月は品薄になることは珍しくなかったが、なぜ「PS5」は1年経った今でも入手困難なのだろうか。
「まず、コロナ禍のテレワーク需要などでPCやスマホといった半導体を使う商品の需要も高まり、世界的な半導体不足に陥っていることが大きな原因。また、それ以外にもコロナの影響で生産体制が充分に整わなかったり、国際的な物流などのライフラインが壊滅的だったりしたことも要因として考えられます。そのほかに、これもコロナの影響ですが、自宅での時間を充実させようと考えた人々から、家庭用ゲーム機のニーズが高まったことも関係しているでしょう」(小野氏)
やはりコロナが多角的に影響しており、ユーザーの需要に対しメーカーの供給が圧倒的に追いついていないということなのだろうが、品薄に拍車をかけているであろう転売業者の存在も看過できない。
「確かに転売業者が法律の隙間をすり抜けて、グレーゾーンの転売行為をしていることも問題ですね。メーカー、物流関係者、小売店といったステークホルダーも、どのようにすれば純粋にPS5を欲しがっているユーザーのもとに届けられるかと対策を講じており、一定の効果は出ているのでしょうが、転売行為を根絶するのは難しい状況です」(小野氏)
PS5の定価は標準モデルで4万9980円(税別)だが、いまだにオークションサイトなどでは倍以上の価格である10万円オーバーで取引されていることがザラ。つまり、厳密にいうと品薄状態が続いているのは“定価販売のPS5”であり、金に糸目をつけなければ、すぐにでも手に入れることはできるのである。
定価でなら買いたいというゲームファンは多いにもかかわらず、定価よりも圧倒的に高い価格で売りに出されているため、新品のまま箱から出されもしていないPS5が、世界中に山ほど眠っているというイビツな現状ということだ。
ソニーの商品で日本が後回し?
ここでPS5と過去のゲーム機との流通量の違いを考えてみたい。現在のPS5の生産・供給体制と、ゲーム業界がにぎわっていた1990年代に発売された初代PSや、任天堂の「スーパーファミコン」などの生産・供給体制に違いはあるのだろうか。
「当時は社会現象になるほど人気のあるゲーム機は日本でしか開発されていませんでした。ですからまず日本で販売されて、そこから半年後にアメリカ、その半年後にヨーロッパで販売、といった流れが当時は当たり前だったのです。それからもう少し先の時代を見ても、PS2は日本販売のみで発売3日間で98万台を売り上げました。当時は、日本でハードをつくっており、なおかつ日本市場での高い需要が見込めたので、PS2を大量に販売することが可能だったというわけです」(小野氏)
しかし、日本と世界の状況やバランスに変化が起こったと小野氏は続ける。
「ここ20年ぐらいの日本とアメリカの平均年収を比較すると、100万円以上の差が開いていることがわかります。PS5の定価は全世界で同一の価格帯なんですが、アメリカに比べて相対的に年収が低い日本ではPS5の4万9980円という価格を高いと感じ、手を出せないというゲームファンが多くなっているんでしょう。
それは日本で2014年に発売されたPS4が、定価3万9980円(税別)で販売されたときにも通じると思います。実際、日本でもPS4はある程度人気でしたが、アメリカやヨーロッパではそれ以上に大ヒットしていましたからね。ソニーはワールドワイドに販売を行っているので、当然、購入が集中しやすい地域にPS5を優先して供給しています。PS5はPS4のときの経験則を活かして、欧米を優先的に販売しているということでしょう」(小野氏)
ソニーは日本発のメーカーではあるが、グローバル展開する世界的企業でもある。ゲーム業界における日本国内のマーケットは、もはや最重要視されるものではないということか。
では最後に、PS5へのもうひとつの不満点として挙げられる、専用タイトルのラインナップの乏しさの原因はなんなのか。PS5専用タイトルはリメイク版の「Demon’s Souls」や、「ラチェット&クランク」シリーズの最新作「ラチェット&クランク パラレル・トラブル」など、わずかなのである。
「そもそも今のゲーム業界ではPS4、PS5、Xboxシリーズ、そしてPCなど多くのプラットフォーム向けに、マルチプラットフォーム対応でソフトがつくられることが常識となりつつあります。また、PS5オリジナルのソフトをつくろうとしても、PS4以上にユーザーの期待を超えるものをつくらなくてはいけないというプレッシャーもあるでしょうし、それだけ開発費用、開発期間も延びてしまいがちなんです。さらに現在はリモートワーク体制によって、メーカーの開発効率が落ちていることもソフト不足の追い打ちとなっているのでしょう。PS5専用タイトルが少ない背景にはこういった要因があるのです」(小野氏)
確かに、今年PS5で発売された「BIOHAZARD VILLAGE」や「LOST JUDGMENT 裁かれざる記憶」といった人気タイトルも、マルチプラットフォーム対応だった。PS5専用タイトルとして発売するのは、メーカーのリスクやデメリットが大きいということのようだ。
いずれにしてもPS5がほしくても品薄で買えない、買えるとしても転売業者の高額販売になってしまうという状況は、一刻も早く解消してもらいたいものである。
(文・取材/A4studio)